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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第4章 迷宮編

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第36話 人殺しの弟

「お~い!起きろよ!■■■!」


「ん...なんだよ兄貴。」


いつも通りの朝だ。


兄が今日も俺を起こしに部屋へ飛び込んで来る。


俺が布団を深く被っても兄は何度も起こし続ける。


そんな毎日だった。


「ほら、早くしろよ。遅刻するぞ」


「分かってるって...」


「分かってる奴は布団に籠らねぇんだよ」


兄はそう言って俺の布団を無理やり剥がした。


「寒っ...」


「もう春だぞ。」


「朝は寒いんだよ。」


「はいはい。じゃあ飯食いに行くぞ。」


「分かったよ。」


俺は眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。


階段を降りる。


キッチンでは母が朝食を用意していた。


くだらない会話。


何の変哲もない朝。


それが当たり前だった。


兄は俺より少しだけ早く家を出る。


俺はその背中を見ながら学校へ向かう。


それもいつものことだった。


兄は昔から明るかった。


誰とでも話せて、友達も多かった。


俺とは正反対だった。


俺は別に兄ほど人付き合いが得意じゃなかった。


だから、兄のことを少し羨ましく思っていた。




それから数年が経った。


勉強が出来る兄は全国でも有名な学校に行った。


そして俺は名前を書けば受かるような高校、俺たちは別の学校へ通っている。


兄は相変わらずだった。


明るくて、友達が多くて。


家に帰れば学校であったことを楽しそうに話していた。


俺はそんな兄の話を聞きながら、適当に相槌を打つ。


それが当たり前の日々だった。


そんな当たり前が大好きだった。


ある日の帰り道。


俺は1人で家へ向かっていた。


いつもの道。


いつもの時間。


いつもの景色。


その日も、何も変わらないと思っていた。


「■■■」


後ろから声を掛けられた。


振り返る。


知らない男が立っていた。


「...誰?」


「お前、あいつの弟だろ?」


「あいつ?」


「とぼけんなよ」


男は笑っていた。


その笑顔が妙に気持ち悪かった。


「お前の兄貴、最近調子乗ってるよな。」


「...兄貴が?」


「そうだよ。」


男が一歩近づいてくる。


俺は反射的に後ろへ下がった。


男はポケットから何かを取り出した。


鈍く光る刃物。


「っ...!」


足が震える。


男がさらに近づいてくる。


鋭い刃先が俺の顔へ、目へと向けられる。


後ろは壁、もう逃げ場がない。


その瞬間。


「■■■!」


聞き慣れた声がした。


兄だった。


「お前、弟に何してんだ?」


「お前こそ何だよ。」


男は兄に刃物を構え直した。


兄は俺を見た。


「■■■、下がってろ。」


「で、でも...!」


「いいから。」


いつもの兄とは違う声だった。


低くて、静かな声。


俺は言われた通りに後ろへ下がった。


男が兄へ向かって走り出す。


「兄貴!」


次の瞬間。


鈍い音がした。


兄の身体が男にぶつかる。


二人が地面に倒れ込んだ。


「兄貴!」


俺は駆け寄ろうとした。


だが、兄が叫んだ。


「来るな!」


俺の足が止まる。


何度も揉み合う音が聞こえた。


怒鳴り声。


荒い息遣い。


そして。


静かになった。


「...兄貴?」


兄が立ち上がった。


その手には、赤いものが付いていた。


地面には男が倒れていた。


動かない。


兄は俺を見る。


しばらく何も言わなかった。


そして、いつものように笑った。


「■■■、怪我ないか?」


「...うん。」


「そっか。」


兄はそれだけ言った。


俺は倒れている男を見る。


兄はただ俺の頭に手を置いた。


「泣くなよ。」


「だって...」


「俺は大丈夫だから。」


兄はそう言って笑った。


でも、その笑顔はいつもの兄の笑顔とは少し違っていた。


俺は何も言えなかった。


目の前で倒れている男。


兄の手に付いた赤いもの。


頭では分かっていた。


もう、この男は動かない。


「...兄貴。」


「ん?」


「...血。」


兄は自分の手を見た。


「ああ...これか。」


兄は少しだけ黙った。


それから、俺の頭を撫でた。


「気にすんな。」


「で、でも...!」


「お前を守っただけだ。」


兄はそう言った。


その声は、いつもの優しい声だった。


だからこそ、余計に怖かった。


俺は何も言えなかった。


ただ、目から涙が溢れてきた。


「...泣くなって。」


「だって。」


「俺は大丈夫だって。」


兄は笑った。


でも、その笑顔を見ていると、余計に涙が出てきた。


兄は俺の頭を撫で続けた。


何度も。


何度も。


兄は俺の涙を拭いながら、困ったように笑った。


「なぁ。」


「...?」


「もう泣かないって、約束しないか?」


「約束?」


「そう。男同士の約束だ。」


兄はそう言って、小指を俺の前に差し出した。


「兄貴...」


「俺も約束する。」


「何を?」


「お前を泣かせない。」


兄は笑った。


いつもの笑顔だった。


少なくとも、その時の俺にはそう見えた。


俺は涙を拭って、兄の小指に自分の小指を絡めた。


それから、兄は帰ってこなくなった。


父はずっと黙っていた。


母は明るく振舞おうと無理していた。


学校へ行けば、知らない奴まで俺を見る。


『人殺しの弟』


そんな声が聞こえる。


俺は何も言い返せなかった。


兄は俺を守っただけだ。


それなのに。


兄が人を殺したという事実だけは、消えなかった。


それからしばらくして、俺は学校へ行かなくなった。


外へ出れば、誰かが俺を見る。


人殺しの弟。


その言葉が、ずっと頭の中に残っていた。


読んでいただきありがとうございます。

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