第33話 初任務
「大型害魔獣の討伐?」
ある日、俺とカレンはローズベルに呼ばれ団長室に来ていた。
「ああ、そうだ。」
「でも、何で私たちに?」
カレンが不思議そうに首を傾げた。
「お前たち2人の実力を知っておきたいからだ。」
「...実力?どういう事だ?」
「黒牙、葬法司の撃退はカーネル達の協力あっての物だ。」
「だからこそ2人だけの実力を測っておきたい。」
「なるほど...」
「そう身構え無くても良い。簡単な任務だ。」
「古い迷宮に住み着いた大型害魔獣を討伐する、ただそれだけだ。」
「といっても魔獣は魔獣だ。十分に気を付けろ。」
ローズベルは机の上に一枚の紙を置いた。
そこには迷宮の簡単な地図が描かれていた。
「これが今回お前たちに向かってもらう迷宮だ。」
「...結構古そうだな。」
「実際、かなり古い。いつ誰が造ったのかも分かっていない。」
カレンが地図を覗き込む。
「大型害魔獣って、どんな奴なんですか?」
「詳しい種類までは分かっていない。」
「分かってない?」
「ああ。迷宮の奥で目撃されたという報告があるだけだ。」
「それって大丈夫なのか?」
「だから、お前たちに任せる。」
「いや、全然大丈夫そうに聞こえないんだけど...」
カレンが苦笑する。
ローズベルは気にした様子もなく続けた。
「迷宮の入口までは騎士団が案内する。」
「だが、内部にはお前たち2人だけで入ってもらう。」
俺は地図を見る。
古びた迷宮。
大型害魔獣。
そして、2人だけ。
簡単な任務と言われても、あまり簡単には思えなかった。
「...分かった。」
俺が答えると、カレンも頷いた。
「私も行きます。」
ローズベルは二人を見る。
「なら決まりだ。」
「出発は明日の朝だ。」
俺たちは団長室を出た。
廊下を歩きながら、カレンが口を開く。
「ねぇ、ソフィ。」
「ん、どうした?」
「何かさ、ちょっと楽しみじゃない?」
「...何が?」
「初めての二人だけの任務。」
カレンは笑った。
「今までずっとカーネル達に助けてもらってたから。」
「...まあな。」
俺も少しだけ笑う。
確かに。
今度は俺たち2人の力だけで戦う。
どこまでやれるのか。
少しだけ気になっていた。
そして翌朝。
俺たちは迷宮へ向かうため、街の外へ出た。
しばらく歩くと、森の奥に古びた石造りの建物が見えてきた。
入口は大きく崩れている。
周囲には雑草が生い茂り、人の気配はない。
「...ここが迷宮?」
「ああ、そうだ。」
案内してきた騎士が頷く。
「気をつけろよ。」
「俺たちはここで待っている。」
俺は迷宮の入口を見る。
暗い。
奥が見えない。
「....行くか。」
「うん。」
俺とカレンは迷宮の中へ足を踏み入れた。
その瞬間。
背後から差し込んでいた光が遠ざかる。
迷宮の中は、想像していた以上に静かだった。
「...静かだね。」
「魔獣がいるんだよな?」
「いるはず。」
俺たちは慎重に歩き始める。
足音だけが、石造りの通路に響いていた。
薄暗い。
「フレイム。」
俺は早速使えるようになった火属性の魔法を使った。
カーネルのように素早く火は出ないが最初はこんな物だろう。
「これで少しはマシになったな。」
「...ソフィいつのまに使えるようになったの?」
カレンは不満そうに俺を見ている。
「この前カーネルに教えてもらったんだよ。」
「え~何それズルい~!」
カレンは頬を膨らませた。
「別にズルじゃねぇだろ。」
「私にも教えてよ~!」
「お前は自分で使えるだろ。」
「そうだけどさぁ。」
カレンは俺の手元の炎を見る。
「なんか悔しい!」
「何でだよ。」
「だってソフィだけ新しい魔法使えるようになってるんだもん。」
「お前も覚えればいいだろ。」
「今度教えて!」
「ああ。」
カレンは満足そうに笑った。
俺は小さな炎を浮かべたまま、迷宮の奥へ進んでいく。
フレイルの炎が、薄暗い通路を照らす。
壁には古びた傷跡がいくつも残っていた。
「...結構深そうだね。」
「そうだな。」
「魔獣、どこにいるんだろ。」
「さあな。」
俺たちは周囲を警戒しながら歩く。
しばらく進んでも、魔獣の姿は見えない。
聞こえるのは俺たちの足音だけ。
「...静かすぎない?」
カレンが小さな声で言った。
「確かにな。」
「魔獣がいるなら、何か音がしてもよさそうなのに。」
耳を澄ます。
しかし何も聞こえない。
水の音も。
風の音も。
魔獣の鳴き声も。
ただ、俺たちの呼吸だけが聞こえている。
「変だね。」
「息を潜めてるのかもな...」
「じゃあ、もっと警戒しないとね。」
カレンが剣を抜く。
俺も腰の短剣に手を掛けた。
フレイルの小さな炎だけが、暗い通路を照らしている。
その時。
「...ソフィ。」
「ん?」
カレンが俺の肩を掴んだ。
「今、何か聞こえなかった?」
「何か?」
「うん。」
俺は耳を澄ます。
遠くから、微かに何かが石の床を踏んだような音がした。
「...俺も聞こえた。」
「やっぱり!」
カレンが声を潜める。
俺たちは音のした方向へ進んだ。
曲がり角を一つ。
さらにもう一つ。
しかし、何もいない。
「...?」
俺は周囲を見回す。
「あれ、気のせいだったのかな。」
「いや。」
俺は前方を見る。
「まだ先から聞こえる。」
俺たちはさらに進んだ。
やがて、通路の先に大きな空間が見えてきた。
そこには、崩れかけた石柱が何本も並んでいた。
「わあ...広いね。」
「ここは昔、何かの部屋だったのかもな。」
その時だった。
「...!」
地面の奥から、低い音が響いた。
「何?」
カレンが剣を構える。
俺も身構えた。
音は徐々に大きくなっていく。
そして。
「来るぞ!」
俺が叫んだ瞬間。
壁が崩れた。
「きゃっ!」
二人で横へ飛ぶ。
直後。
轟音と共に通路が崩れた。
「ソフィッ!」
「カレン!」
砂埃が舞い上がる。
視界が真っ白になる。
「大丈夫!?」
「俺は平気だ!」
「私も!」
だが。
俺はすぐに気付いた。
「...道が塞がれた。」
崩れた石壁が、俺たちの間を完全に遮っていた。
互いの声は聞こえる。
だが、向こう側へ行くことはできない。
「少し戻って別の道を探そう!」
「分かった!」
俺はそう答えた。
しかし。
その瞬間。
どこか遠くから、また音が聞こえた。
「...?」
俺は振り返る。
暗い通路の奥。
そこに。
一瞬だけ、人影が見えた。
小さな影。
長い髪。
「...誰だ?」
俺は目を凝らした。
だが、もう何もいない。
俺はもう一度だけ、その暗闇を見た。
何だったんだ。
魔獣ではない。
人だった。
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