第29話 男は男らしく
ミルネと出会ってから1年。
俺の生活は少し変わった。
ミルネは俺の過去を知っても慕ってくれる。
「カーネル様~」
今日もミルネは俺に抱き着きに来た。
短かったミルネの髪も肩辺りまで伸びている。
ミルネは髪を括ったり編んだり自分の髪を気に入っているようだ。
「お前は本当に距離が近いな...」
「だって~カーネル様は命の恩人っすからね~」
「だからって毎回抱き着くな。」
「嫌っすか?」
「...別に。」
「じゃあいいっすね!」
「よくねぇよ。」
ミルネは楽しそうに笑った。
ミルネは騎士団に来てから、俺の後ろをよくついてくるようになった。
最初はただの子供だった。
だが、一年も経てば少しずつ変わっていった。
騎士団の生活にも慣れ、剣の訓練にも参加するようになった。
「カーネル様、今日も訓練するっすか?」
「ああ。」
「じゃあ自分も行くっす!」
ミルネは木剣を持ち上げる。
構えはまだまだ素人だった。
それでも、必死に俺の真似をしている。
「こうっすか?」
「違う。足はもう少し開け。」
「こう?」
「もう少し。」
「こうっすか?」
「...まあ、それでいい。」
「やった!」
ミルネは嬉しそうに笑った。
俺は木剣を構える。
そして、いつものように振った。
一回。
二回。
三回。
ミルネも隣で木剣を振る。
「はぁ...はぁ...」
「疲れたか?」
「まだまだっす!」
そう言いながら、ミルネは木剣を振り続ける。
俺はそんなミルネを見ていた。
昔の俺とは違う。
俺には、誰かと一緒に訓練するという経験がなかった。
何かを教えてくれる人もいなかった。
だから。
「...無理はするなよ。」
「カーネル様?」
「怪我したら治るとはいえ、痛いもんは痛い。」
「カーネル様も痛いんすか?」
「当たり前だろ。」
「でも、いつも平気そうにしてるっすよ?」
「慣れてるだけだ。」
そう言うと、ミルネは少しだけ黙った。
「...カーネル様。」
「なんだ?」
「自分、強くなるっす。」
「...そうか。」
「カーネル様を守れるくらい。」
俺は少しだけ目を見開いた。
「馬鹿言うな。俺はお前に守られる必要なんてねぇよ。」
「でも、いつか絶対守るっすよ!」
ミルネは笑った。
その笑顔を見て、俺も少しだけ笑った。
だが。
周囲からは相変わらず俺への悪口が飛んでくる。
「また肉盾とミルネちゃんが一緒にいるぞ。」
「仲良しごっこか?」
「男のくせに髪なんか伸ばして、気持ち悪ぃな。」
「騎士ならもっと男らしくしろよな。」
ミルネの足が止まった。
「...」
いつもの笑顔が消えていた。
握っていた木剣に、少しずつ力が入っていく。
「おい、聞こえてんのか?」
別の騎士が笑いながら言った。
「女みたいな格好して、女みたいな喋り方してよ。騎士団は遊び場じゃねぇぞ。」
「...」
ミルネは何も言わなかった。
ただ、俯いていた。
水色の髪が顔にかかって、その表情が見えなくなる。
俺は騎士を睨んだ。
「...もう行くぞ、ミルネ。」
「はいっす...」
ミルネは笑おうとした。
「大丈夫っすよ。いつものことっすから。」
だが、その声は少し震えていた。
俺は何も言わず、訓練場を離れた。
しばらく歩いたところで、ミルネが口を開いた。
「...カーネル様。」
「なんだ?」
「自分って、そんなに変っすか?」
俺はミルネを見る。
ミルネは水色の髪を肩まで伸ばしていた。
今日は髪を後ろで一つに結んでいる。
騎士団の男たちは短髪が多い。
髪を伸ばしている騎士など、ほとんどいなかった。
それだけじゃない。
ミルネは男だ。
だが、服装も仕草もどこか女の子らしい。
髪を気に入って手入れしている。
話し方も柔らかい。
笑うときも、どこか女の子のような仕草になる。
本人はそれを気に入っていた。
だからこそ。
「変じゃない。」
俺はそう答えた。
「本当っすか?」
「ああ。」
「でも...」
ミルネは自分の髪を触った。
「切った方がいいっすかね。」
「なんでだ?」
「...みんな、笑うから。」
ミルネは髪を握った。
「自分、これ好きなんすけど...」
最後の言葉は、小さかった。
俺は少し黙った。
「変じゃない。」
もう一度、そう言った。
「髪を伸ばして何が悪い。」
「...」
「女みたいな服を着て何が悪い。」
ミルネが顔を上げる。
「お前が好きでやってるなら、それでいいだろ。」
「...でも、自分浮いてるっす。」
「俺だって浮いてる。」
少しの沈黙。
カーネルはミルネを見る。
水色の髪。
肩まで伸びた髪を、ミルネは大切そうに触っている。
「...好きなんだろ?」
「好きっす。」
「なら、切る必要なんかねぇだろ。」
「...」
「男らしくしろって言われたからって、お前が好きなもの捨てる必要はねぇよ。」
ミルネは目を丸くした。
「カーネル様...」
「俺には似合うかどうかなんて分からねぇ。」
「...」
「でも、お前がそれを好きなら、それでいいだろ。」
ミルネは髪を握っていた手をゆっくり離した。
「...自分、この髪好きっす。」
「ああ。」
「この喋り方も好きっす。」
「ああ。」
「女の子みたいって言われるのも...嫌じゃないっす。」
「なら、そのままでいろ。」
ミルネはしばらく黙っていた。
そして。
「...はいっす!」
いつもの笑顔に戻った。
「じゃあ、切らないっす!」
「最初からそうしろ。」
「カーネル様も肉盾って呼ばれても気にしないっすもんね!」
「それとこれとは話が違ぇだろ...」
「同じっすよ!」
「全然違ぇよ。」
ミルネは楽しそうに笑った。
カーネルも小さく笑う。
その日の帰り道。
ミルネは何度も自分の髪を触っていた。
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