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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第3章 騎士団編

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第26話 自由

それからは早かった。


両親が寝静まった頃に家を飛び出した。


荷物はほとんど持っていない。


少しの食料と、水だけ。


振り返る。


暗い家が見えた。


ここで何年も暮らしてきた。


楽しかったこともあった。


両親に抱きしめてもらったことも。


頭を撫でてもらったことも。


褒めてもらったことも。


全部覚えている。


それでも。


俺は前を向いた。


集落の外へ出る。


森の中へ入った。


「...自由だ。」


誰に言うでもなく呟いた。


初めてだった。


誰にも何も言われない。


祈れとも言われない。


教典を読めとも言われない。


魔女様のためになるのか、と聞かれることもない。


俺は好きな方向へ歩いた。


少しだけ走った。


何度も振り返った。


誰も追ってきていない。


それが嬉しかった。


「これが...自由なのか。」


俺は笑った。


森を抜ける。


知らない道が続いていた。


見たことのない景色。


知らない建物。


知らない人。


世界は思っていたよりずっと広かった。


俺はその日、一日中歩いた。


足が痛くなっても歩いた。


疲れても歩いた。


夜になり、森の中で眠った。


地面は硬かった。


寒かった。


それでも。


「家よりいい。」


そう思った。


翌朝。


腹が減って目を覚ました。


持ってきた食料を食べる。


それだけでは足りなかった。


水も少なくなっていた。


それでも俺は歩いた。


町を探した。


誰かに助けを求めることはできなかった。


怖かった。


知らない人に声をかける勇気なんてなかった。


それに。


俺は何も知らなかった。


金もない。


仕事もできない。


どうやって生きればいいのかも分からない。


ただ自由になりたかった。


それだけだった。


二日目。


食料がなくなった。


樹皮を剥いで口にした。


まともな味なんてしない。


でも、何も食べないよりはマシだった。


三日目。


水もほとんどなくなった。


足には靴擦れができていた。


それでも歩いた。


「...腹減った。」


初めてだった。


こんなに腹が減ったのは。


集落にいた頃は、毎日食事があった。


祈りをして、教典を読んで、言われたことをしていれば食べられた。


嫌だった。


逃げたかった。


でも。


生きることは、もっと大変だった。


その日の夜。


俺は木の根元に座り込んだ。


身体に力が入らない。


寒い。


腹が減った。


喉も渇いている。


「...俺、一人じゃ何もできないんだな。」


初めて気づいた。


自由になれば、何でもできると思っていた。


好きな場所へ行ける。


好きなことができる。


誰にも命令されない。


それだけで幸せになれると思っていた。


でも。


自由には、自分で生きるということもついてくる。


俺には、それができなかった。


「...帰ろうかな。」


その言葉を口にした瞬間。


胸が痛くなった。


帰ったら、また祈らされる。


また魔女様について学ばされる。


また自由を奪われる。


それでも。


「...父さん。」


「...母さん。」


声に出してしまった。


二人の顔が浮かんだ。


俺が家を出たことに気づいただろうか。


心配しているだろうか。


怒っているだろうか。


探しているだろうか。


「...ごめんなさい。」


涙が出た。


俺は両親が嫌いだったわけじゃない。


ただ。


自由になりたかった。


自分の人生を、自分で決めたかった。


それだけだった。


「...帰ろう。」


俺は立ち上がった。


足は痛かった。


身体も重かった。


それでも。


来た道を戻った。


数日かけて歩いた道を、今度は集落へ向かって歩く。


途中で何度も休んだ。


何度も倒れそうになった。


それでも歩いた。


そして。


ようやく。


集落が見えてきた。


「...帰ってきた。」


懐かしい景色だった。


見慣れた家々。


見慣れた道。


見慣れた祭壇。


俺は少しだけ安心した。


怒られるだろう。


叱られるだろう。


それでも。


父さんと母さんに謝ろう。


そして、もう一度ちゃんと話そう。


少しくらいなら。


俺の気持ちも聞いてくれるかもしれない。


そう思った。


集落の中へ入る。


けれど。


何かがおかしかった。


いつもなら誰かが歩いている。


子供たちが遊んでいる。


祭壇の前には人が集まっている。


それなのに。


誰もいなかった。


「...?」


静かだった。


あまりにも静かだった。


不安になった。


俺は家を出た。


勝手に出ていった。


だから怒っているのかもしれない。


どこかへ探しに行っているのかもしれない。


そう思った。


「すみません!」


近くの家を訪ねる。


返事はない。


別の家へ行く。


そこにも誰もいない。


「...なんで。」


集落の奥へ進む。


そして、その先に黒くなった建物があった。


「...なんだ、これ。」


近づく。


それは。


家だった。


俺の家だった。


正確には。


俺の家だったもの。


壁は焼け落ちている。


屋根もない。


黒く焼けた柱だけが残っていた。


「...嘘だ。」


足が動かなくなる。


柱に体を縛られている二人がそこにあった。


眼球は溶け地面へと垂れ下がり溶けた皮膚が柱に張り付いている。


魔鳥が広がった二人の眼球をついばんでいる。


「...父さん?」


返事はない。


「母さん...?」


返事はない。


二人の手は、胸の前で固まっていた。


何かを掴もうとするように。


何かを求めるように。


指先が伸びている。


二人のは既に崩れはじめていた。


こうなってから一体どれ程経ったのだろうか。


考えるだけで足が震えた。


一歩。


また一歩。


近づいていく。


その時。


焼け跡の中から、小さな紙切れが風に飛ばされてきた。


俺はそれを拾った。


そこには見慣れた文字で、こう書かれていた。


『魔女様への反逆者を赦すな』


「...」


紙を握り潰す。


「...なんだよ、これ。」


頭が理解することを拒んでいた。


俺は家を出ただけだ。


魔女様を傷つけたわけじゃない。


誰かを殺したわけでもない。


ただ。


ここから離れたかっただけだ。

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