第23話 封印
「魔女の復活...」
「そうだ。」
ローズベルは静かに頷いた。
「根拠は?」
俺が尋ねると、ローズベルは指を一本立てた。
「一つ、奴らがお前を『魔女の器』と呼んだことだ。」
「...」
確かに、アニルもリニアも俺をそう呼んでいた。
「二つ、全国で魔女信教の活動が活発になっていること。」
ローズベルは二本目の指を立てる。
「そして三つ目。」
三本目の指が立てられた。
「魔女を封印している結界、万象の羅針球が弱まり始めていることだ。」
「万象の羅針球...?」
聞き覚えのない名前だった。
ローズベルは机の上に置かれた資料へ目を落とした。
「万象の羅針球は魔女を封印する結界だ。」
「封印...?」
「ああ...」
ローズベルは一度言葉を切った。
「そしてその結界を構成しているのが、魔女自身の肉体だ。」
「...肉体?」
「魔女の肉体は、関節ごとに切断された。」
「...!」
思わず息を呑む。
「切断された肉体は、それぞれ封印され、結界として利用されている。」
ローズベルは淡々と説明を続けた。
「それが、万象の羅針球だ。」
「じゃあ...」
俺は机の上の資料を見る。
「万象の羅針球っていうのは...魔女の肉体そのものなのか?」
ローズベルは静かに頷いた。
「千年前から、魔女はその肉体と共に封印され続けている。」
部屋が静まり返る。
魔女の肉体。
それ自体が封印になっている。
そして今、その封印が弱まり始めている。
「...だから、魔女信教が動き出した。」
「その可能性が高い。」
ローズベルはそう答えた。
『魔女の器』
あの言葉が、再び頭をよぎる。
もし魔女が復活するために、俺が必要なのだとしたら。
「...俺は、何に使われるんだ?」
「まだ分からん...ただ奴らはお前を確実に狙うだろう。」
カレンが俺の裾をぎゅっと握った。
また同じような事が起きるとしたら...考えるだけで恐ろしい。
「そこで本題だ。」
「ソフィ、カレン。お前たちを騎士団に入団させる。」
「...騎士団に?」
カレンが驚いたように声を漏らした。
俺も思わずローズベルを見る。
「そうだ。」
ローズベルは迷うことなく頷いた。
「今回の襲撃で、魔女信教がお前たちを狙っていることは明白になった。」
「特にソフィ、お前は『魔女の器』として狙われている。」
「...」
「このまま一般市民として生活するのは危険だ。」
ローズベルはそう言いながら、机の上の資料を指で叩いた。
「騎士団に所属すれば、騎士団の施設を利用できる。」
「そして護衛も付けられる。さらに、魔女信教について得た情報も共有できる。」
「俺を守るため...ってことか。」
「ああ。」
俺は腕を組んで考える。
守られる。
その言葉を聞いて、少しだけ複雑な気持ちになった。
これまでの俺は、自分が強くなって誰かを守ることばかり考えていた。
なのに今度は、自分が守られる側になる。
「俺は、騎士団に入って何をすればいい?」
「訓練を受けてもらう。」
「訓練?」
ローズベルが頷く。
「ソフィ、お前は既にカーネルから戦闘訓練を受けているそうだな。」
「ああ。」
「なら話は早い。騎士団員として正式な訓練を受けてもらう。」
「...強くなれるのか?」
「少なくとも、今よりはな。」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ目を細めた。
強くなれる。
そのための環境がある。
なら、断る理由はなかった。
「俺は入る。」
即答だった。
カレンがこちらを見る。
「ソフィ...」
「魔女信教がまた来るなら、今度は逃げるだけじゃ終わらせない。」
あの時の光景を思い出す。
燃える街。
倒れていく人々。
俺の腕の中で意識を失ったカレン。
そして、笑いながら俺を追ってきたアニル。
「俺は、もっと強くなりたい。」
ローズベルはしばらく俺を見つめていた。
やがて、静かに頷く。
「分かった。」
その隣でカレンが手を上げた。
「私も入ります!」
「カレン?」
「ソフィだけ危ない目に遭うのは嫌だもん。」
カレンは笑った。
「それに、私ももっと強くなりたい。」
「...」
いつものカレンだった。
明るくて、真っ直ぐで。
それでいて、こういう時だけ妙に頼もしい。
「二人とも、覚悟はあるか?」
ローズベルが尋ねる。
「ああ。」
「はい!」
二人の返事が重なった。
ローズベルは静かに頷いた。
「なら歓迎しよう。」
こうして俺とカレンは、騎士団へ入団することになった。
翌日。
俺とカレンは、騎士団の訓練場に来ていた。
昨日、正式に入団が決まったばかりだというのに、もう訓練を始めるらしい。
「早くない?」
カレンが困ったように笑う。
「騎士団ってこういうものなんだろ。」
「ソフィ、ちょっと嬉しそうじゃない?」
「...気のせいだ。」
訓練場には、既に何人もの騎士が集まっていた。
その中には見慣れた顔もある。
「お、来たか!」
カーネルが大きく手を振った。
「今日から正式に俺達の仲間だな!」
「そういうことになるな。」
「じゃあ早速。」
カーネルが俺の肩に手を回そうとする。
「近い。」
「冷たいなぁ!」
その隣でミルネが小さく笑う。
「ソフィ!カレン!改めて歓迎するっす!」
「よろしくお願いします!」
カレンが頭を下げる。
俺も軽く頭を下げた。
その時、訓練場の奥から一人の騎士が歩いてきた。
「訓練を始めるぞ。」
低い声と共に、周囲の騎士達が静かになる。
俺は無意識に背筋を伸ばした。
今日から俺は、騎士団員だ。
守られるだけじゃない。
ここで強くなる。
新しい日々が、始まろうとしていた。
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