第20話 探し物み~つけた!
リニアは、再生したカーネルをじっと見つめていた。
「ねぇねぇ~」
カーネルが剣を構える。
「今度はどこ壊そうかな~?」
「クソガキが...!」
カーネルが地面を蹴った。
一瞬で距離を詰める。
剣が振り下ろされる。
しかし。
「えいっ」
リニアがカーネルの右腕をぎゅっと掴んだ。
「は...?」
次の瞬間。
腕の内側を何かが走った。
カーネルの腕が大きく震える。
筋肉が引きつり、骨が軋む。
リニアは楽しそうに笑った。
「魔力をね~身体の中にい~っぱい流すの!」
「...!」
「そうすると~!」
カーネルの右腕が内側から弾けた。
骨が肉を突き破り剥き出す。
「ぐあっ!!」
剣が地面へ落ちる。
「カーネル!」
俺が叫ぶ。
リニアは嬉しそうに手を叩いた。
「壊れた!」
「...この野郎ッ!」
カーネルが残った左腕で殴りかかる。
リニアはひょいと避けた。
「じゃあ次~!」
今度はカーネルの左脚。
「ぐっ...!」
脚が震える。
そして。
膝から下が崩れ落ちた。
カーネルの身体が傾く。
それでも倒れない。
「まだ、終わってねぇぞ...!」
「すごーい!」
リニアの目が輝く。
「もっとやろ!」
「ふざけんなァッ!」
カーネルが残った腕を振る。
リニアは笑いながら後ろへ飛び退いた。
「カーネル様!」
ミルネが声を上げる。
俺は歯を食いしばった。
カーネルは再生する。
裂けた筋肉が這い、骨が伸び、皮膚が塞がる。
だが、再生した瞬間。
「えいっ♪」
リニアがまた触れる。
ボンッ!
再生した腕が、もう一度内側から弾けた。
「があぁぁッ!」
「わぁ~! また壊れた!」
骨が、内臓が、何度も外気へ晒される。
再生。
破壊。
再生。
破壊。
終わりの見えない拷問だった。
何度も再生できるカーネルでも体の負担は大きいだろう。
「...俺が行く。」
「ソフィ!?」
俺は地面を蹴った。
魔力はほとんど残っていない。
それでも走った。
リニアへ向かって一直線に飛び掛かる。
「えっ?」
リニアが目を丸くする。
俺は短剣を振り上げた。
「このっ...!」
「ばいば~い!」
リニアが俺の頭へ手を向けた。
「ソフィ!!!」
冷たい魔力が頭蓋の内側へ一気に流れ込む。
脳を握り潰されるような激痛。
視界が白く染まり、耳鳴りだけが世界を満たした。
「ソフィ!!」
ミルネの叫びが遠い。
終わった。
そう思った。
だが、死ななかった。
「あっれれ~!?」
リニアが目を丸くする。
「う、あ゛ぁ゛っ...!」
頭が割れるように痛い。
視界はぼやけ、膝が崩れる。
耳鳴りがひどい。
周囲の音が聞こえない。
魔力は確かに流し込まれた。
なのに、身体は壊れない。
「なんで壊れないの...?」
リニアが初めて戸惑った表情を浮かべた。
俺は頭を押さえたまま石畳へ崩れ落ちる。
「あ゛っ...!」
耳鳴りが止まらない。
視界は歪み、吐き気が込み上げる。
「ソフィ!」
カーネルが血だらけの身体で飛び込み、俺を抱えて後方へ跳んだ。
そのまま石畳を滑り、ミルネの前で止まる。
「大丈夫か!? ソフィ!」
俺は答えられない。
ただ頭の奥だけが、まだ焼けるように痛んでいた。
「ソフィ...!」
ミルネが俺の肩へ手を伸ばす。
だが、その手が止まった。
「...何?」
俺の身体には傷がない。
頭を押さえているだけ。
外傷は一つもなかった。
「おかしい...」
カーネルが呟く。
「リニアの魔力を直接流し込まれたんだぞ...?」
その言葉を聞いたアニルが、ゆっくりと俺へ近づく。
「なるほど...」
「アニル?」
リニアが首を傾げる。
「あたしの魔力、ちゃんと入ったよ?」
「うん。」
アニルは笑った。
「見てた。」
「じゃあ、なんで壊れないの~?」
「それが問題なんだよ。」
アニルが俺を見る。
その目から、さっきまでの軽薄な笑みが消えていた。
「君。」
「...っ」
俺はぼやける視界の中でアニルを睨む。
「何者なのかな?」
「知らねぇよ...」
声がうまく出ない。
「俺は...俺だ。」
アニルは数秒黙った。
そして。
「...そっか。」
小さく笑った。
「間違いない。」
「何がだ。」
カーネルが俺を庇うように立つ。
アニルはカーネルには目も向けなかった。
視線はずっと俺に向いている。
「探してたんだ。」
「...探し物?」
ミルネが呟く。
アニルが頷く。
「そう。」
燃え上がる街。
崩れた建物。
黒煙が夜空へ昇っていく。
その中で、アニルだけが妙に嬉しそうだった。
「ボクたち魔女信教は、ずっと探してた。」
「何を...?」
俺が聞く。
アニルは指を伸ばす。
その指先が、俺を捉える。
「魔女様の器だ。」
「...!」
カーネルの表情が変わる。
「魔女の...器だと?」
「そう。」
アニルは笑った。
「魔女様の力を受け入れられる存在。」
「そんなものが...」
ミルネが息を呑む。
リニアも不思議そうにアニルを見る。
「それが、ソフィなの?」
「うん。」
アニルが即答した。
「やっと見つけた。」
俺の背筋が凍る。
「は?...俺が?」
「そうだよ。」
アニルが一歩近づく。
「普通の人間なら、魔力をあれだけ直接流し込まれたら身体が耐えられない。」
「でも君は違う。」
アニルの笑みが深くなる。
「壊れなかった。」
リニアが俺を見る。
そして、ぱっと笑顔になった。
「じゃあソフィ、壊れない子なんだ~!」
「...ふざけるな。」
俺はふらつきながら立ち上がる。
「俺は...お前らの玩具じゃねぇ。」
短剣を握り直す。
手は震えている。
頭もまだ痛い。
それでも構えた。
「俺を欲しけりゃ...」
アニルを睨む。
「力ずくで来い。」
「ふふっ。」
アニルが笑う。
「もちろん。」
その瞬間。
リニアが両手を広げた。
「じゃあ、また遊ぼっか~!」
地面が、大きく揺れた。
瓦礫が宙へ浮かび上がる。
街全体が、再び蠢き始める。
「待て、リニア。」
アニルが片手を上げる。
「え~?」
「壊しちゃ駄目だよ。」
アニルは俺を見る。
「この子は...」
静かに笑った。
「魔女様の器なんだから。」
その言葉が、燃え盛る街に響いた。
俺はただ、短剣を握り締めた。
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