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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第1章 黒牙編

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第2話 朱色の髪

「っ、ぁ...!」


男たちの笑い声が頭上で響く。


逃げられない、勝てない。


そんな当たり前の現実を、


身体が嫌というほど理解させてくる。


服を掴む手、押さえつける腕、


知らない男の体温、恐怖で視界が滲む。


こんなチンピラ共、


本来なら一人で全員叩き潰せるはずだった。


振りほどこうとした腕は


子供を押さえるみたいに簡単にねじ伏せられた。


「暴れるなって、お嬢ちゃん」


「や、やめっ...」


情けない声だった。


自分の口から出たとは思えないほど弱々しい。


嫌だ。怖い。助けてほしい。


その言葉だけが喉元まで込み上げてくる。


だが叫べない。


助けを求めるなんて、負けを認めるみたいで。


俺はずっと一人で全部ねじ伏せてきた。


誰かに縋ったことなんて、一度もなかった。


金髪の男の手が髪を乱暴に掴み上げる。


痛みで涙が滲む。


その瞬間。


張り詰めていた何かが、ぷつりと切れた。


「だ、れか...」


掠れた声。


惨めで、弱くて、情けない声。


「たすけ、て...」


次の瞬間。


金髪の男の身体が、横殴りに吹き飛んだ。




「ぶへっ...!?」


頭上で、肉がひしゃげるような鈍い音が響いた。


押さえつけていた力が消える。


何が起きたのか分からない。


霞む視界の先。


路地の入口には、朱色の髪を束ね


剣を背負った少女が立っていた。


(誰だ?)


「てめぇ何しやがる!」


仲間二人がナイフを手に少女に襲い掛かる。


刹那、金属音が響いた。


男の手からナイフが弾かれ、宙を跳ねる。


(見えなかった、いつの間に剣を抜いた?)


風圧で銀色の髪が揺れる。


朱色の髪を揺らしたその少女は


静かに剣を男たちへ向けた。


「死にたくなかったら早くここから消えなさい」


その瞳には、一切の躊躇いもなかった。


「い、行くぞ!」


男たちは金髪の男を担ぎ消えていった。


安堵した瞬間、全身から力が抜けた。


「大丈夫?立てる?」


ここに来て初めて触れる人の優しさだった。


差し伸べられた手が滲んで見える。


「私の名前はカレン、君の名前は?」


「お、俺は...」


名前を言おうとして、言葉が止まる。


通り魔に刺されて、気づけば少女になっていた。


そんな話、信じてもらえるはずがない。


「実は、記憶がなくて...名前も、ここがどこなのかも分からない。」


声が震える。呼吸が上手くできなかった。


やっと触れた優しさを失う気がした。


「名前が無いのは不便だなぁ...じゃあソフィって呼んでいい?」


その名前を受け入れることが


自分を否定する気がした。


自分には似合わない名前のはずだった。


でも今はその名前を否定しきれなかった。


「うん...」


俺はただ頷く事しかできなかった。


「寒いでしょ?」


露出した肌に


カレンの羽織っていた上着が被さる。


肩に掛けられた上着の温もりに


張り詰めていたものが崩れた。


「あっ、ありがとう、ございます...」


大粒の涙が石畳の道の色を変えていく。


泣いたのはいつぶりだろうか。


涙を流す事はもう二度と無いと


誓ったはずだった。


「ほら、ここは危ないから早く離れよう」


カレンに手を引かれ裏路地から出る。


街はさっきの出来事も知らずに活気だっている。


「ここはどこ?」


この状況、知らない事だらけだ。


まずはここがどういう所かが知りたい。


「ここはザルヴセイド。シュナーネ共和国の首都だよ」


(聞いたこともない国だ。やっぱり、俺の知る世界じゃない。)


店の看板には謎の文字が並び、その中に


時折カタカナのような文字が混じっている。


俺以外にも日本から来た人がいるのだろうか。


「どこに向かってるの?」


「私の家、その格好じゃ外も歩きにくいでしょ?」


羽織っている上着を無意識に締める。


周囲の視線には慣れていたはずだった。


けれど今は、その一つ一つが恐ろしかった。


俺は視線から逃げるように俯いた。


石畳を踏む靴音。


行き交う人々の笑い声。


店先から漂う香辛料の匂い。


知らないはずだけど不思議に


どこか懐かしさも感じる。


もっと剣と魔法の世界みたいな場所を想像した。


だが、目の前にあるのは


整備された石畳の道だった。


明るい街灯が並び


人々が当たり前のように生活している。


子供が走り回り


露店では料理人が忙しなく鍋を振っている。


俺が想像していた世界じゃない。


まるで普通の都市だ。


「……平和なんだな」


カレンが不思議そうに首を傾げる。


「そりゃ共和国の中心だし、着いたよ」


目の前には石造りの二階建ての家。


カレンが鍵を回し扉を開く。


意外にこの世界にも電球があるようだ。


玄関に灯った白い光に思わず目を細める。


「電気?」


反射的に漏れた言葉に、カレンが振り返る。


「デンキ? これは魔導灯だけど...ソフィのいた場所では違う呼び方なの?」


所々俺の居た世界と似たものがあるようだ。


「この部屋使ってなかったから」


そう言われて通されたのは、質素な一室だった。


部屋に唯一あるのは壁に掛かった小さな鏡。


「服、替えられるもの持ってくるね」


カレンはそれだけ言うと


軽い足音で部屋を出ていった。


扉が閉まった瞬間、部屋が静かになる。


また一人、


だけどこの世界に来た時とは違い


少し安心感があった。


さっきまで誰かに掴まれていた肩が


やけに軽い。


(俺は、誰なんだ)




視線が自然と壁の鏡に向かった。


そこに映っていたのは、知らない少女だった。


肩までの髪、細い首筋。


震えたまま固まっている表情。


(違う...これは俺じゃない)


そう思うのに、喉の奥が拒否できない。


無意識に手を伸ばす。


鏡の中の少女も、同じように手を伸ばした。


「……っ」


呼吸が浅くなる。


男として生きてきた記憶と


この身体の感覚が噛み合わない。


力の入り方も、声の高さも、全部が違う。


そのとき、扉がノックされた。


「入るよー」


カレンが戻ってくる。


手には何枚かの服をもっていた。


「色々持ってきた!好きなの選んでいいよ!」


笑顔で服を見せるように持ち上げる。


その服はどれも今までの俺には


合わない服ばかりだった。


全部この身体のために用意されたものだった。


「着替え終わったら呼んでね」


カレンが部屋を出る。


服を体に合わせ鏡を見る。


「はは、何やってんだろ、俺は。」


少しサイズの大きい服を着る。


「か、カレン、着替えた。」


カレンが扉を開ける。


「似合ってる!可愛いよソフィ!」


カレンは俺が男だってことを知らない。


だから笑顔でそんなことを言える。


今の俺が欲しくなかったその言葉


聞きたくなかった言葉。


「ありがとう。」


でも、嬉しかった。


自然と笑みが零れてしまった。


「ねぇ、記憶が戻るまででいいからさ一緒にいてよ!」


「この家、私ひとりじゃ少し広いしさ。」


カレンが笑顔で話す。


「どうして、そこまで優しくしてくれる?」


出会って半日もたってない俺に


そこまでする義理はないはずだ。


なのに、どうして。


「困ってる人を助けるのに理由って必要?」


カレンは不思議そうに聞き返してきた。


その一言が、やけに重く胸に残る。


(そんなの、今まで考えたこともなかった)


助ける側に理由なんていらない。


そんな考え方が、理解できない。


「...変な人だな」


小さく漏れた声に、カレンは笑った。


「よく言われる」


彼女は俺に足りないものを持っていた。


俺に足りなかった強さを持っていた。


(強さ……)


それは、何も壊さない力じゃない。


ただ勝つだけの力でもない。


「...なぁ」


気づけば声が出ていた。


カレンが振り返る。


「なに?」


少し迷って、それでも口を開く。


「俺、この世界のこと、何も分からない」


「何もできないし、何も持ってない」


言葉にするほど、現実が重くなる。


それでも続けた。


「でも。」


喉が詰まる。


それでも、言わなきゃいけない気がした。


「このまま、誰かに守られるだけは嫌だ」


カレンの目が、少しだけ真剣になる。


「じゃあどうしたいの?」


(どうしたい...)


そんなの、今まで考えたことがなかった。


生きることは、選ぶことじゃなかった。


売られた喧嘩は全部買って生きてきた。


誰もが俺に逆らわなかった。


誰も対等な相手がいなかった。


でも今は違う。


選ばなければ、何も始まらない。


「俺は、」


視線を落とすと、自分の手が見えた。


細くて、頼りなくて


あの時押さえつけられた手と同じくらい弱い。


それでも、その手はここにある。


「俺は、強くなりたい」


「誰かを、自分の大切なものを守れるように。」


カレンの手が俺の頭に乗る


「なれるよソフィなら」


なにも分からない事だらけだし。


ひどい目にもあったけど。


この世界で生きていきたいとそう思えた。

読んでいただきありがとうございます。

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