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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第1章 黒牙編

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第1話 少女になった日

蒸し暑い夏の夜、コンビニのレジ袋を片手に


暗い夜道を一人歩いていた。


街灯に無数の虫が群がり、自動販売機の白い光が


家までの道をぼんやりと照らしている。


掲示板には数々の広告や張り紙が並んでいた。


いつもなら気にも留めず素通りしている。


だが、その夜はなぜか足を止めた。


(連続通り魔事件、注意してください)


中央に貼られていたのは、交番からの


注意喚起の張り紙だった。


今までに三人が襲われている。


犯人は未だ逃走中。


「物騒だな...」


鼻で笑う。


もし襲われたとしても、どうにでもなる。


喧嘩なら負けたことがない。


地元の不良も、半グレも、向かってきた連中は


全員叩き潰してきた。


今さら通り魔程度にビビる理由はなかった。


俺は最強だ。


だんだんと家が見えてくる。


早くエアコンの効いた部屋へ戻りたい思いで


足取りが軽くなった。


背後で足音が止まる。


違和感を覚え、振り返ろうとした瞬間。


腹に熱が走った。


「...は?」


視線を落とす。


腹部から、ナイフの柄が突き出ていた。


フードをかぶった男が立っている。


今まで感じたことのない痛み。


ナイフが腹から引き抜かれていく感覚。


腹の奥から熱が溢れ、


自分の血が地面へ広がっていく。


力が抜ける。


膝が崩れ、アスファルトへ倒れ込んだ。


少し肌寒くなり、体が震え、視界が霞む。


生暖かい血が体に広がる。


セミの声が、少しずつ遠ざかっていった。


次に目を覚ました時。


暗かったはずの空は、


雲一つない青空へ変わっていた。


痛みも寒気もない。


誰かが救急車でも呼んだのだろうか。


気づけば、空を見上げたまま突っ立っていた。


...こんなにも身体は軽かっただろうか。


「今、何時だ?」


周囲を見渡す。


病院でも見慣れた住宅街でもなく石畳の道。


レンガ造りの建物。


見慣れない服装の人々が行き交っている。


「...なんだ、ここ」


声がいつもと違う。


すべてが少し大きく見える。


身体の違和感、見知らぬ場所。


理解が追いつかない。


震える手を見下ろす。


細い。


喧嘩で傷だらけだった自分の手とはまるで違う。


視界の端で、銀色の髪が揺れた。


反射的に髪へ触れる。


柔らかく長い。


肩に軽く触れる髪は


どう考えても俺の髪じゃない。


ふらつく足で歩き出す。


店の窓ガラスに映った姿を見て、足が止まった。


そこにいたのは、見知らぬ銀髪の少女だった。


「...誰だ、これ」


こんなの、俺じゃない。


知らない街。


知り合いもいない。


胸の奥を、強烈な孤独感が締めつけた。


気づけば走り出していた。


訳も分からないまま、ただ必死に。


だが、遅い。


思うように脚が動かない。


足がもつれ、何度も身体が傾いた。


息が苦しい。


たったこれだけ走っただけで、


肺が焼けるようだった。


無我夢中で走り続ける。


気づけば、人通りのない


薄暗い裏路地へ迷い込んでいた。


裏路地は入り組んでいて


どこから来たかも分からなくなっていた。


奥から足音が複数聞こえてくる。


「おい、嬢ちゃん」


笑い声が聞こえた。


数人の男が路地の奥からこちらを見ていた。


その目は、今まで自分が


向けられたことのない種類のものだった。


「黙れ...」


一番背の高い金髪の男の腹に拳を放つ。


いつもなら、この一撃で


地面に沈めているはずだった。


俺の拳は「凶器」だった。


だが、違った。


金髪の男は依然とした態度でいる。


男の分厚い腹筋に阻まれた拳が


弱々しく弾き返された。


「いっ...つ、あ...っ!?」


細く白い指の皮が裂け、鋭い激痛が走る。


喉から漏れたのは、情けないほど高い、


女の子の悲鳴だった。


「おいおい、生意気な嬢ちゃんだと思ったら、


随分可愛い声で鳴くじゃねえか」


(効いてない? 俺のパンチが、こんな雑魚に...!?)


男たちのニヤついた顔が目に焼き付く。


かつて地元の不良や半グレを恐怖させた


俺の威厳など、ここには微塵もない。


男たちの目に映っているのはただの無力で、


迷子になった、可哀想な銀髪の女の子だ。


いつの間にか逃げ道は仲間にふさがれていた。


「さあて、それじゃあ……暴れたお仕置きといこうか」


男の足蹴りが俺の腹に入り込む。


「が、はっ...!?」


衝撃が腹の奥深くまで突き抜け、


身体は無様に石畳の上を転がった。


(痛い、こんな雑魚の蹴り簡単に避けられるはずだったのに)


生まれて初めて味わう、底の抜けたような恐怖。


痛い。信じられないほど痛い。


お腹を抱え、地面を這いずりながら


激しく咳き込む。


痛みのあまり涙がボロボロと溢れてくる。


地面を這って距離を取ろうとする。


だが、その背中に、ずっしりと


重い金髪の男のブーツが踏み下ろされた。


「おい、傷はあまり付けるなよ?売る時値が下がるからな」


「へへ、わかってますって。まずは俺たちで味見してからっすよね」


(売る...? 味見...?)


男たちの言葉の意味を脳が理解した瞬間、


全身の毛穴が総毛立った。


向けられているのは、暴力の先にある、


もっとおぞましい悪意。


聞き慣れない布の裂ける音が路地裏に響いた。


「嫌っ...! やめろ...!」


背中を押さえつけられたまま、


乱暴に服の襟元を掴んで引き裂かれる。


冷たい外気が、剥き出しになった白い肌に触れ、心臓が跳ね上がる。


男たちの大きな、手が、


俺の身体の細い肩や背中に触れてくる。


生理的な嫌悪感と、圧倒的な力の差への絶望が


胸を突き上げてくる。


嫌だ。触るな。


頼むから、やめてくれ。


かつて「最強」と自惚れていたプライドなんて、一瞬で消し飛んだ。


今ここにいるのは、


男たちの巨大な身体に組み伏せられ、


服を剥ぎ取られようとしている、




ただの無力な子供だ。

読んでいただきありがとうございます。

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