第16話 私も守ってよ!ソフィ!
アニルの指を鳴らした。
「っぶな!」
とっさに下がって正解だった。
さっきいた場所に火柱が立ち込めていた。
「良いっ!良いねぇ!」
その笑顔を見ているだけで、背筋が寒くなる。
魔女信教...なんでここに居るんだ。
「なんで街を襲った...」
「えぇ~?気になる?気になるよね?気になるか~!」
アニルが嬉しそうに笑う。
「それはねぇ...」
人差し指を立てる。
「探し物だよ!!!」
「探し物?何を探してるんだ...?」
「それはね~秘密ゥ!!!」
「...は?」
「ふふふっ...あっはははは!」
「...ふざけるな!」
こんな状況で、何がそんなに楽しいんだ。
街は燃えている。
逃げ惑う人たちの声が聞こえる。
それなのに、目の前の男はまるで遊んでいるように笑っている。
「も~そんなに怒らないでよぉ」
「怒るに決まってるだろ!」
俺はカレンを背負い直す。
「こんなことして……何が目的なんだ!」
「目的?」
アニルは首を傾げる。
「さっき言ったじゃん。探し物だよ」
「だったら、なんで街の人たちを巻き込んだ!」
「だって、邪魔だったからさ」
あっけらかんとした表情でアニルは言い放った。
「探し物するならさ、掃除してからのほうが見つけやすいでしょ?」
「掃除...?」
思わず聞き返した。
アニルは何がおかしいのか、楽しそうに笑っている。
「そう!掃除!」
「人がいるんだぞ...?」
「うん?」
「ここには、ここで暮らしてる人たちがいる。」
「知ってるよ?」
あまりにも当然のように答えた。
「だったら...!」
怒りで声が震える。
「だったら、どうして...!」
「一回聞いても分からない?じゃ・ま・だ・か・ら!」
アニルがニッコリ口元を歪めた。
「探し物をするのに、瓦礫も人も建物も邪魔でしょう?」
「...お前。」
俺はカレンを背負い直す。
「絶対に許さない。」
「え?」
「お前みたいな奴...絶対に許さない!」
アニルは一瞬だけ黙った。
「...あはっ、いいねぇ。」
「...?」
「その顔。」
アニルが一歩近づく。
「怒ってる顔、すっごく、すっごくいいよ。」
「っ...来るな!」
俺は腕を突き出す。
「魔撃ッ!」
魔力が一直線に飛ぶ。
アニルが両手を優しく前に出した。
「イグ・フレア」
アニルの放った炎の壁が魔撃を飲み込み家々を燃やしながら俺へと向かう。
俺は地面を強く蹴る。
「っ...」
俺は炎の壁に飲み込まれる前に屋根へ飛び乗った。
「すごいすごい!」
「……くそっ!」
今の俺では、気を失ったカレンを背負ったまま戦うのは無理だ。
それなら...逃げるしかない!
「えぇ~! 逃げちゃうの?」
背後からアニルの声が響く。
「...当たり前だ!」
俺は屋根の上を走る。
足場が悪い。
一歩間違えれば、カレンごと火の中へ落ちる。
それでも止まれない。
「カレン...!」
背中にいるカレンの身体を支える。
反応はない。
「大丈夫...大丈夫だ...だから、」
自分に言い聞かせるように呟く。
「絶対に助けるから。」
その時
「待ってよぉ!」
背後からアニルの声。
振り返る。
「……っ!」
アニルが笑いながらこちらへ向かってくる。
炎が巨大な腕のように伸び、屋根を焦がしてく。
「名前くらい教えてくれたって良いでしょ~?」
「うるさい!」
「も~待ってってばぁ!」
「っ!」
俺は咄嗟に屋根から降りながら街頭を握り遠心力で反対側の屋根へ飛び移った。
直後、前まで居た屋根を炎が走り抜けた。
「危な...!」
「アハハハハ!」
背後から笑い声が響く。
「やっぱり君、面白いねぇ!」
その時俺の前に何かが落ちた。
人だ。
黒く焦げた人が落ちてきた。
「ひっ...」
追いつかれれば俺達も...
「た、す....けっ」
後ろから聞こえる助けを求める声...
まだ生きていた。黒く炭化した体で意識が残っていたのだ。
だが足を止める訳にはいかない。
「背中の子は助けるのに見捨てるんだ~!」
「...っ!」
少しアニルの方を見る。
アニルの巨大な炎の手の中で人が燃えている。
悶え叫び続ける声が次第に掠れていく。
目がドロっと溶けて垂れている。
それでもアニルは笑みを絶やさなかった。
「ねぇなんで見捨てるの~?」
「違う...俺はそんなんじゃ...」
「何が違うの?」
アニルが笑う。
「その人も助けてあげればいいじゃん。」
「俺は...」
振り返る。
助けを求める声。
その声を聞いてしまった。
見捨てたくなんてない。
でも
背中にはカレンがいる。
「ごめんなさい...ごめんなさい、ごめんなさいっ」
アニルの笑顔が深くなる。
「じゃあさ。」
アニルが楽しそうに声を上げる。
「その子を置いていけばいいじゃん!」
「...!」
「そうすれば、もっとたくさん助けられるかもしれないよ?」
「嫌だ...カレンは絶対...カレンだけは助ける...!」
「...へぇ。」
アニルが目を細める。
「やっぱり、君は面白いなぁ!」
次々と炭化した死体が俺の前へ降り注ぐ。
「...っ」
足が止まりそうになる。
見たくない。
もう何も見たくない。
なのに、目を逸らすことができない。
「どうしたの~?」
アニルが楽しそうに声を上げる。
「怖い?」
「...黙れ。」
「怖いよねぇ。」
「黙れよ!もう喋るな!」
「ば~んっ」
アニルの炎の腕が家を崩す。
「っ...!」
足場が崩れる。
俺は屋根から飛び降りた。
建物の隙間を抜け、地面へ着地する。
足に激痛が走った。
「ぐっ...!」
それでも止まらない。
走る。
走る。
ただひたすらに。
「ねぇ待ってよぉ!」
背後からアニルの声が響く。
「まだ遊び始めたばっかりじゃないか!」
俺は振り返らずに走り続ける。
これは、アニルにとって遊びでも、俺にとっては生きるための戦いだ。
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