第14話 目覚めた2人
「ソフィ!」
勢いよく部屋のドアが開いた。
「カレン、どうした?」
「オルガさんとレーンさんが目を覚ましたって!」
「ホントか?」
思わず声が弾んだ。
「うん!」
カレンが嬉しそうに頷く。
「良かった...」
胸の奥から、安堵の息が漏れた。
黒牙との戦いから、もう2か月。
オルガもレーンも、ずっと眠ったままだった。
あの時は、本当に2人とも助からないんじゃないかと思った。
「会いに行こう!」
カレンが俺の手を引く。
「ああ!」
俺も立ち上がる。
「2人とも、今どんな顔してるかな」
「きっと元気になってるよ!」
「だといいな。」
部屋を出る。
廊下を歩きながら、俺は少しだけ胸を躍らせていた。
2ヶ月。
長かった。
あの戦いの日から、俺自身も随分と変わった。
魔撃もより自分のものにできたし、治癒魔法も少しずつ使えるようになった。
そして今度はオルガとレーンが目を覚ました。
病室の前に着く。
「ここだよ!」
カレンが扉を指差す。
「...なんか緊張するな」
「どうして?」
「いや...2ヶ月ぶりだぞ?」
「大丈夫だって!」
カレンが笑う。
俺は一度だけ深呼吸をしてから、扉を開けた。
「...お」
ベッドの上にはオルガがいた。
まだ少し顔色は悪い。
だが、確かに目を開けている。
「ソフィ....か?」
「オルガ!」
思わず駆け寄る。
「目、覚めたんだな!」
「ああ...」
オルガが弱々しく笑う。
「心配かけたな」
「本当だよ!」
後ろからカレンが顔を出す。
「2ヶ月ずっと寝てたんだからね!」
「...2ヶ月もか。」
「そうだよ。」
「そうか...」
オルガはしばらく天井を見上げた。
「長かったな。」
「あぁ。」
俺も頷く。
すると、隣のベッドから声がした。
「もう、うるさいですよ。」
そこには、上半身を起こしたレーンがいた。
「起きてたなら言ってくれよ。」
「オルガさんが話していたので。」
「いや、普通に起きてるなら混ざれよ!」
「まだ眠かったので。」
「お前なぁ...」
カレンが吹き出す。
「ふふっ。レーンさん、相変わらずだね!」
「そうですか?」
「そうだよ!」
カレンが笑う。
俺もつられて笑った。
...なんだろう。
たったこれだけのことなのに。
妙に安心する。
ずっと張り詰めていたものが、少しだけ解けていくような気がした。
「ところで、身体の調子はどうなんだ?」
「まだ本調子ではありませんね。」
レーンが自分の腕を軽く動かす。
「ですが、問題なく動かせます。」
「俺も似たようなもんだ。」
オルガが身体を起こしながら答える。
「医者には、しばらく安静にしてろと言われたがな。」
「当然だろ。2ヶ月も寝てたんだから。」
「お前には言われたくないな。」
「なんでだよ。」
「お前の戦い方は滅茶苦茶だったからな」
呆れたように笑うカレン。
その横で、レーンも小さく笑っていた。
こんな時間が、ずっと続けばいい。
ふと、そんなことを思った。
黒牙との戦い。
あれから2ヶ月。
長かった。
それでも、俺たちは生きている。
オルガも、レーンも、カレンも。
そして俺も生きている。
失ったモノも沢山あったけれど。
今こうして笑いあえている。
それだけで十分だった。
「そういえば...」
レーンがふと思い出したように口を開く。
「ソフィさんは、最近どうなんです?」
「俺?」
「はい。以前とは随分と雰囲気が変わりましたね。」
「そうか?」
「ええ。」
レーンは少しだけ笑う。
「なんというか...以前より楽しそうです。」
「...そうかな?」
自分ではよく分からない。
けれど、最近は確かに楽しい。
訓練場へ行って。
魔撃の練習をして。
カレンとくだらない話をして。
たまに甘いものを食べる。
そんな毎日が、今は嫌いじゃなかった。
「じゃあ、退院したらみんなで訓練しようよ!」
カレンが言う。
「まだ安静にしてろって言われたばかりだぞ?」
オルガが呆れたように返す。
「じゃあ、軽い訓練!」
「それでも駄目だろ。」
「え~!」
病室に再び笑い声が響く。
俺も笑った。
2ヶ月前には、こんな日がまた来るなんて思っていなかった。
でも、今はここにある。
明日もきっと同じような一日が来る。
そう思いながら、俺は病室を後にした。
カレンは安心したように胸を撫で下ろした。
「2人とも元気そうで良かった!」
「これで一安心だな。」
「うん!」
カレンが嬉しそうに笑う。
「じゃあ帰ろっか。」
「ああ。」
俺たちは並んで廊下を歩き始めた。
外へ出ると、夕方の風が頬を撫でた。
「今日、なんかいい日だったね。」
「そうだな。」
「オルガさんもレーンさんも目を覚ましたし!」
「ああ。」
「ソフィも嬉しそうだったし!」
「俺?」
「うん!」
カレンが俺の顔を覗き込む。
「ずっと嬉しそうだったよ?」
「...そうか?」
「そうだよ。」
「自分じゃ分からないな。」
「じゃあ私が見ててあげる!」
「なんだそれ。」
「ソフィが嬉しそうかどうか、私が毎日確認するの!」
「毎日はいいよ。」
「え~!」
カレンが頬を膨らませる。
「じゃあ三日に一回!」
「なんで回数を減らせばいいと思ったんだよ!?」
「じゃあ二日に一回!」
「増えてるぞ。」
「じゃあ毎日!」
「戻っただけじゃないか!」
カレンが楽しそうに笑う。
その笑い声を聞きながら、俺も自然と笑っていた。
街はいつも通りだった。
店先には明かりが灯り、道を歩く人たちの声が聞こえる。
どこにでもある、ありふれた日常。
それが今は、妙に心地良かった。
「ねえ、ソフィ。」
「ん?」
「明日も一緒に訓練行こうね。」
「もちろん。」
カレンが満足そうに頷く。
俺たちはくだらない話をしながら、いつもの道を歩いていった。
やがて見慣れた家が見えてくる。
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