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最強番長TS転生で非力から  作者: 塩レモン
第2章 魔女信教編

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第11話 魔女と英雄

黒牙との決戦から一か月後。


俺とカレンは街の診療所で過ごしていた。


傷は少しずつ癒えてきたが、体にはまだ包帯が巻かれたままだ。


日常生活を送るには、もう少し時間が必要だった。


「なぁ、治癒魔法で治せば良くないか?」


俺が尋ねると、医師は苦笑した。


「治癒魔法は万能じゃない。」


「傷を消すんじゃない。治る力を早めるだけだ。」


「その分、体力も栄養も大量に消費する。」


「重傷に使えば、身体が先に限界を迎えることもある。」


「だから重傷は自然に治すか、上級治癒魔法に頼るしかない。」


そう言って医師は俺の包帯を結び直した。


「特に君は、死んでいてもおかしくなかった。」


「君の魔動脈は、ほとんど焼き切れていた。」


「もう二度と、あんな無茶な魔力消費はやめなさい。」


そう言い残し、医師は病室を離れた。


医師が去った後、俺はベッドの横に置かれた本へ手を伸ばした。


カーネルが差し入れで持ってきてくれたものだ。


暇つぶしにもなるし、文字を読む練習にもなる一石二鳥だ。


俺はゆっくりページをめくる。


『厄災の魔女』


内容は単純だった。


世界を滅ぼそうとした邪悪な魔女。


数多くの国を襲い、人々を恐怖に陥れた厄災。


その魔女に立ち向かったのが、勇敢な騎士団と大賢者だった。


大賢者は人々へ知恵を授け、騎士たちを導いたという。


長い戦いの末、騎士団と大賢者は魔女を封印したという。


そして世界には再び平和が訪れた。


大賢者の名は、世界を救った英雄として千年経った今も語り継がれている。


「...魔女、か。」


カーネルやミルネの言っていた魔女信教が脳裏に浮かんだ。


本を閉じようとした、その時。


「ソフィ、いる?」


扉が開く。


振り向くと、そこにはカレンとオーレンが立っていた。


「カレン?」


「お見舞いに来たよ!」


カレンは笑顔で手を振る。


その隣で、オーレンも小さく手を振った。


「久しぶりね、ソフィちゃん。」


「オーレンさんも来てくれたんですか?」


「もちろん。可愛い子が大怪我したって聞いたら、顔を見に来るでしょ?」


相変わらず距離が近い。


「いや、近いですって...」


「ふふ、ごめんごめん。」


オーレンは楽しそうに笑う。


カレンが呆れたようにため息をついた。


「もう、オッちゃんは誰にでもそうなんだから。」


「可愛いものを見ると撫でたくなるのよ。」


「犬や猫じゃないんだから...」


二人のやり取りに、思わず笑ってしまう。


「あら、それ読んでたの?」


オーレンが持っていた本へ視線を向けた。


「懐かしいわね。」


「懐かしい?」


「そう。昔、母に読んでもらったのを思い出すわ。」


オーレンはそう言って笑う。


「子供なら誰でも知ってるくらい有名な話ね。」


「なぁ...魔女って、本当にいたのか?」


俺が聞くと、オーレンは少し考えるように首を傾げた。


「さあね。千年前の話だから、本当にいたのかも分からないわ。」


「でも、アルテナ王国では魔女の伝承は特に有名なの。」


「アステルス家のお嬢様も、よく魔女の話をしていたらしいわ。」


「もしかしたら貴族みたいに身分の高い方なら何か知っているのかもね。」


「アステルス家?」


「アルテナ王国で有名な名家よ。」


「そうなんだ...」


「いつか行ってみたいな~アルテナ王国!」


「アルテナ料理がおいしいんだよ~!」


「私は昔に行った事があるわ。」


オーレンはどこか懐かしそうに目を細めた。


「白い石造りの街並みに、季節の花がたくさん咲いていてね。」


「歩いているだけで気持ちが明るくなるような国だった。」


「騎士の国としても有名で、子どもたちは木の枝を剣代わりに遊んでいたわ。」


「『大きくなったら騎士になる』って、みんな目を輝かせて話していたの。」


「へぇ、そんな国なんだ。」


「料理も美味しいわよ。」


「お米を使った料理が多くてね。」


「香辛料の効いた肉料理や甘い焼き菓子は絶品だったわ。」


「聞いてたらお腹空いてきた~!」


カレンがお腹を押さえて笑う。


「それでね、アステルス家のお嬢様にも少しだけ会ったことがあるの。」


「どんな人だったんだ?」


「黒髪で小柄な、とても礼儀正しい子だったわ。」


「使用人にも町の人にも分け隔てなく接していて、すごく優しい印象だった。」


「でも少し変わっていてね。」


「暇さえあれば古い本を読んでいたの。」


「特に千年前の魔女や、大賢者の話になると目を輝かせていたわ。」


「大賢者ってどんなひとなんだ?」


「アルテナ王国を築いたって伝わる伝説の英雄よ。」


「文字や文化を広めた人物とも言われているわ。」


「今使われている文字も、大賢者が広めたって言い伝えが残っているの。」


「その大賢者って、最後はどうなったんだ?」


「誰も知らないわ。」


「魔女を封印した後、姿を消したって言われているの。」


「死んだのか、生きていたのか...それすら伝わってない。」


「だから今でも謎の英雄なのよ。」


「そうなんだ...」


魔女。


大賢者。


アステルス家。


今日だけで、知らない名前をいくつも知った。


異世界に来て一か月半。


この世界のことを少しは分かったつもりでいた。


だけど、それはほんの入り口に過ぎなかった。


この世界は、思っていたよりずっと広い。

読んでいただきありがとうございます。

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