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第98話 瓦礫の隙間の光

――光が、弾けた。


「……っ!」


ミラベルの視界が、白く染まる。


何が起きたのか。


自分でも分からない。


ただ――


胸の奥から溢れ出した何かが、身体を突き抜けていく。


熱い。


けれど、不思議と怖くなかった。


「ミラベル!」


エルフィナの声が聞こえた。


「……!」


ミラベルは顔を上げる。


エルフィナの頭上。


亀裂の入った天井が、大きく軋んでいる。


そして――


少し離れた場所。


ノアとガルドに支えられたセレスの頭上でも、巨大な瓦礫が今にも落ちようとしていた。


「――走れ!」


ノアが叫ぶ。


「エルフィナも!」


「でも……!」


「いいから!」


その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……!


天井が崩れた。


「――っ!」


ミラベルは咄嗟に手を伸ばした。


「止まって……!」


何をすればいいのかなんて、分からない。


ただ。


止まってほしい。


誰も――傷ついてほしくない。


「お願い……!」


光が、強くなる。


次の瞬間。


落下していた瓦礫が――


止まった。


「……え?」


エルフィナが目を見開く。


ノアも、ガルドも。


そしてセレスも、言葉を失った。


巨大な石塊が。


無数の瓦礫が。


空中に浮かんでいる。


まるで、見えない何かに支えられているように。


「……ミラベル?」


セレスが呟く。


ミラベルは答えられなかった。


自分の手を見る。


淡い光が、指先から溢れている。


「……これ」


力が流れてくる。


自分の中からなのか。


ペンダントからなのか。


それすら分からない。


けれど。


今は――そんなこと、どうでもよかった。


「……今のうちに!」


ミラベルが叫ぶ。


「逃げて!」


「でも、お前は――」


ノアが言葉を止める。


ミラベルを見る。


その目が、真っ直ぐにノアを捉える。


「大丈夫」


ミラベルは笑った。


「私が止めるから」


「……」


ノアは一瞬だけ黙った。


そして。


小さく頷く。


「……分かった」


迷いのない声だった。


「行くぞ!」


ノアがセレスを支える。


ガルドも反対側から肩を貸す。


「ほら、セレス!」


「分かってる……!」


エルフィナも走り出す。


けれど。


一度だけ振り返った。


「ミラベル!」


「早く!」


「でも――」


「大丈夫だから!」


ミラベルはもう一度、笑った。


「絶対に追いつくから!」


その言葉に、エルフィナは唇を噛む。


そして――


「……うん!」


走り出した。


ノアたちも、その後を追う。


やがて。


四人の姿が、崩れた通路の向こうへ消えていく。


「……ふぅ」


ミラベルは息を吐いた。


途端に、膝が震える。


「……あれ」


力が抜けそうになる。


それでも、倒れなかった。


右手を見る。


まだ、淡い光が残っている。


「……私の力、なのかな」


分からない。


何も分からない。


だけど。


「……守れた」


その言葉だけは、はっきりしていた。


ミラベルは胸元のペンダントに触れる。


「ありがとう……」


その時。


足元で、何かが動いた。


「……?」


ミラベルが振り返る。


そこにいたのは――


四つ脚の魔物だった。


いつからそこにいたのか。


魔物は、じっとミラベルを見つめている。


「……あなた」


魔物がゆっくりと立ち上がる。


そして。


崩れた研究所の奥へ歩き出した。


「ちょっと……」


魔物が振り返る。


その首元。


掠れた紋章が、淡く光っている。


ドクン。


ミラベルのペンダントが応えた。


「……!」


まただ。


この反応。


この魔物と、自分のペンダントには何かがある。


そう思った。


魔物は、もう一度歩き出す。


「……ついてこいってこと?」


返事はない。


ただ。


少し先で立ち止まり、こちらを見ている。


ミラベルは、その背中を見つめた。


怖くないわけじゃない。


何が待っているのかも分からない。


この力の正体も。


ペンダントの意味も。


この研究所が何なのかも。


まだ、何も分からない。


それでも――


ミラベルは、ゆっくりと立ち上がった。


そして。


小さく息を吐く。


「……分かった」


魔物を見る。


「行こう」


一歩。


足を踏み出す。


今度は、迷わなかった。


誰かに選ばされるんじゃない。


自分で決める。


自分の足で進む。


その瞳には、もう迷いはなかった。


ミラベルは、魔物の後を追って――


研究所の奥へと歩き出した。


誰もいなくなった研究所のさらに奥。


崩れた壁の向こうで――


古びた魔法陣が、静かに光った。

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