第92話 残された記憶
「っ……!」
鈍い痛みが全身を走る。
セレスはゆっくりと目を開いた。
視界に映ったのは、崩れた天井だった。
爆発に巻き込まれたのは覚えている。
とっさに風魔法で衝撃を殺したおかげだろう。
「痛っ……」
肩や腕には擦り傷がある。
服もところどころ破れていた。
それでも、骨は折れていない。
「……運が良かったかな」
立ち上がり、大きく息を吐く。
周囲を見回す。
薄暗い石造りの通路。
崩れた瓦礫が道を塞いでいる。
「みんな……」
呼びかけても返事はない。
耳を澄ませる。
爆発音も。
魔物の気配も。
人の足音も聞こえない。
静かすぎた。
「殺気は感じない……」
独り言のように呟く。
敵はいないのか。
それとも、まだ気付かれていないだけか。
慎重に歩き始める。
瓦礫を避けながら進むと、通路の先に小さな部屋が見えた。
扉は半ば外れ、床には本が散乱している。
「……書庫?」
いや。
本棚の並び方が違う。
研究資料を保管するための部屋。
そう考えた方が自然だった。
机の上には朽ちた紙束。
棚には革張りの分厚い本。
そのほとんどは湿気で文字が滲み、読むこともできない。
セレスは一冊ずつ確かめていく。
魔力理論。
魔法陣構築。
生命魔力観測。
どれも旧式の研究書だ。
その時だった。
机の隅に、革紐で束ねられた数冊の手帳が目に入る。
「これは……」
手に取った瞬間、思わず苦笑した。
「相変わらず、読みにくい字だな」
乱暴に跳ねる文字。
癖の強い筆跡。
最初に見つけた時は、一文字読むだけでも何時間もかかった。
学園図書館の地下書庫。
誰にも見つからないよう、何日も通い続けて解読した記憶が蘇る。
「あの時と同じ字……」
表紙には、名前はない。
けれど、セレスには分かった。
「アウレリア……」
彼女の日記だった。




