第85話 無いはずの記憶
五人を包む光は、静かな波のように揺れていた。
眩しさはない。
むしろ――
どこか懐かしく。
どこか温かい。
ミラベルだけが、そう感じていた。
「おい! 全員いるか!」
ノアの声が響く。
「いるよ。ただ……姿が見えないね」
セレスが答える。
「声は近いのに、姿だけが見えねぇ」
ガルドが周囲を見回す。
「妙な魔法ね」
エルフィナの声も聞こえる。
みんな、いる。
声も聞こえる。
なのに。
姿だけが見えない。
(どうなってるの……?)
ミラベルが口を開こうとした、その時。
――
『……ようやく来たか』
――
あの声。
頭の中へ直接響く声。
ミラベルの身体が強張る。
(これが……学園長の言っていた声?)
一歩、後ろへ下がる。
すると。
『ははは』
楽しそうな笑い声。
『そんなに怯えんでもよい』
『わしじゃよ。お前さん、すっかり顔を見せなくなってしまって』
優しい口調だった。
けれど。
どこか違和感がある。
まるで。
自分ではない誰かへ話しかけているような。
『久しいのぉ』
ミラベルは息を止める。
『また会えたな』
胸元のペンダントが、淡く光る。
『……アウレリア』
世界が止まった。
「……え?」
知らない名前。
聞いたこともない名前。
なのに。
胸の奥が、強く反応した。
(……誰?)
(どうして、その名前を呼ぶの?)
ミラベルは無意識にペンダントを握る。
その瞬間。
――世界が揺れた。
知らない景色。
白い塔。
見知らぬ人々。
燃えるような空。
誰かの声。
誰かの手。
誰かを守ろうとする強い想い。
でも。
顔だけが見えない。
全部、知らない。
なのに、どこか覚えてるような気がして、
涙だけがこぼれた。
「……どうして」
自分でも分からない。
なぜ悲しいのか。
なぜ懐かしいのか。
「私は……知らないのに」
次の瞬間。
足元の感覚が消える。
光が弾けた。
「ミラベル!」
ノアの声。
声の方へ手を伸ばす。
しかし。
届かない。
ミラベルの姿は、光の中へ消えていった。
「……ミラベル?」
残された四人の声だけが、静かな空間に響いた。




