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第83話 地下路に揺れる灯

「……取り乱して、すまない」


セレスは古びた本を抱え直し、気まずそうに前髪へ触れた。


「ううん」


ミラベルは小さく首を振る。


「その本、セレスにとって大切なんだね」


「……ああ」


短く頷く。


ミラベルは胸元のペンダントへ手を添えた。


「私もね」


「セレスがその本を大事にしているみたいに」


「大切にしたいものがあるの」


「守りたいという気持ち」


「その気持ちだけは、誰にも負けないと思ってる」


セレスは黙って耳を傾ける。


「私は、セレスやノアみたいに小さい頃から鍛錬してきたわけじゃない」


「魔法だって、たくさん勉強してきたわけでもない」


「でも……」


少しだけ笑う。


「誰かを守りたいって気持ちだけは、人より強いと思う」


静かな地下路に、その声だけが響いた。


「……答えになってないよね」


困ったように笑う。


「ごめんね」


「私にも、自分の力が何なのか分からないの」


「でも」


ミラベルは真っ直ぐセレスを見た。


「学園へ来て」


「セレスやノア、みんなと出会って」


「少しずつ強くなれた気がする」


「だから――」


一歩近づく。


「私の力が何なのか」


「一緒に探してくれない?」


セレスは何も答えなかった。


ただ、その真っ直ぐな瞳を見つめ返す。


地下路に灯る魔石灯が、小さく揺れる。


まるで、その言葉を静かに見守るように。


「ふふ」


セレスは小さく笑った。


「君は本当に面白いね」


「君の魔法を、僕なりに研究してみるよ」


「うん……お願い」


ミラベルは頷いた。


「じゃあ、学園へ戻ろう」


セレスが扉へ向かって歩き出す。


その背中を見つめながら、ミラベルはポツリと呟く。


「でも、一つだけ約束してほしい」


セレスは足を止める。


「約束?」


ミラベルは胸元のペンダントを握る。


「もし……」


少し迷って。


「もし、この力が暴走して」


「誰かを傷つけようとしたら」


真っ直ぐセレスを見る。


「その時は、私を止めてね」


セレスは目を見開いた。


「……君は」


「自分の力を、怖いとは思わないのかい?」


「怖いよ」


ミラベルは即答した。


「でも」


「怖いからって、見ないふりはしたくない」


「守りたいって思った力が」


「誰かを傷つけるものだったら……」


少しだけ目を伏せる。


「それは、嫌だから」


地下路の灯が静かに揺れる。


そこに風は吹いていないのに……



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