第80話 突然の告知
昼下がり。
訓練を終えたばかりのミラベルたちは、突然教官に呼び止められた。
「特別科五名、学園長室へ来るように」
「学園長室?」
ガルドが首を傾げる。
「俺たち、何かやったか?」
「ガルドは心当たりが多そうだけど」
エルフィナが苦笑する。
「ひどいな」
「私は何もしてないよね?」
ミラベルが不安そうに尋ねる。
「さあ」
ノアは短く答えるだけだった。
セレスだけは静かに考え込んでいる。
「どうしたの?」
ミラベルが尋ねる。
「……いや」
「少し、嫌な予感がしてね」
その言葉に、誰も返事をしなかった。
◇
――学園長室。
重厚な扉の向こうには、普段とは違う空気が漂っていた。
学園長は机の前に立ち、窓の外を眺めている。
いつもの穏やかな笑顔はない。
全員が揃うのを確認すると、静かに振り返った。
「今日は雑談ではない」
その一言だけで、部屋の空気が張り詰める。
学園長は前置きなく口を開いた。
「王家より通達が来た」
誰も声を発しない。
「学年末に――」
「王家監督下による選抜演習を実施する」
沈黙。
ガルドが最初に口を開いた。
「……選抜?」
「演習ですよね?」
エルフィナも戸惑いを隠せない。
学園長は小さく頷いた。
「名目は演習だ」
「だが、今年は例年とは違う」
セレスが静かに口を開く。
「……僕は、ただの演習とは思えません」
学園長は否定しない。
肯定もしない。
ただ、一枚の書類へ視線を落とし、静かに告げた。
「落ちる者も出る」
その一言で、空気が凍りつく。
ガルドの表情から笑みが消えた。
エルフィナは息を呑む。
ミラベルは思わず学園長を見つめる。
その時だった。
一瞬だけ。
学園長の視線が、自分へ向けられた気がした。
(……気のせい?)
そう思った頃には、もう視線は外れていた。
「詳細は後日説明する」
「今日は以上だ」
◇
学園長室を出る。
重苦しい沈黙のまま廊下を歩く。
やがてノアがぽつりと呟いた。
「……また試されるってことか」
セレスは少し考え、
静かに答える。
「そうかもしれない」
「あるいは――」
少しだけ目を細めた。
「選ばせるためか」
「選ばせる?」
ミラベルが首を傾げる。
「どういう意味?」
「……まだ分からない」
セレスはそれ以上話さなかった。
意味は分からない。
それでもミラベルは、その言葉だけは妙に心へ残った。
◇
少し離れた図書館の窓辺。
一人の青年が外を眺めていた。
セドリックだった。
吹き込む風が前髪を揺らす。
遠くで歩いていくセレスたちの姿を見送りながら、小さく呟く。
「……始まるな」
その声を聞く者はいない。
いつもの柔らかな笑みも、そこにはなかった。
その瞳だけが、静かに何かを見据えていた。
二年生最後の季節が、誰にも気づかれぬまま、ゆっくりと動き始める。




