第79話 荒れた再会
セレスが訓練場に姿を現したのは、行方不明になってからさらに三日後だった。
ミラベルたちは何も知らない。
いや――知らされていなかった。
ノアに何度尋ねても返ってくる答えは一つ。
「腹を下して、のたうち回ってる」
それだけだった。
「じゃあ、お見舞いに行こうよ」
そう言えば、
「ほっといてやれ」
ノアは即答する。
「醜態なんて見られたくねぇだろ。セレスはプライドだけは高い」
「……それもそうだね」
ノアが言うなら。
そう思い、皆は大人しくしていた。
◇
「今日も来ないのかなぁ、セレス」
ミラベルがぽつりと呟く。
「腹下してるんだろ」
ノアが素っ気なく返す。
「でも、もう六日だよ?」
「そんなにお腹痛いなんて、ただ事じゃないよ」
「セレスの家なら良い医者くらい呼んでるさ」
ガルドが言う。
「それなら尚更、お見舞いに――」
そのやり取りを聞きながら、ノアは必死に口元を押さえていた。
本気で心配している二人を見るたび、笑いが込み上げてくる。
(悪い……)
(でも今さら言えねぇ……)
その時だった。
「やあ、みんな」
聞き慣れた声が響く。
「しばらく休みをもらって、すまなかった」
「セレス!」
ミラベルが真っ先に駆け寄る。
「心配したんだよ!」
「少し痩せた?」
「お前、腹下してたわりには元気そうだな」
ガルドも笑う。
「……?」
何の話だろう。
セレスは首を傾げ、ノアを見る。
ノアはそっぽを向いた。
(見んな)
ちょうどそこへエルフィナがやって来た。
「あ、よかった」
「今朝完成したの」
小瓶を差し出す。
「薬草と治癒魔法を組み合わせた新薬よ」
「ミラベルと一緒に作ったの」
「お腹に効くらしいわ」
「え?」
セレスは受け取る。
「ありがとう。でも、僕はどこも悪く――」
「だめ」
エルフィナが即答した。
「効能は十五分しか持たないの」
「今すぐ飲んで」
「そうだよ!」
ミラベルも身を乗り出す。
「治るまで見てるから!」
「ち、近い近い」
セレスは後ずさる。
(なんでこんなことに……)
助けを求めるようにノアを見る。
ノアは肩を震わせていた。
笑いを堪えるので限界らしい。
ガルドまで追撃する。
「飲んでやれよ」
「この六日間、みんな本気で心配してたんだからさ」
「いや、それは嬉しいんだけど……」
セレスは困ったように笑う。
「ノアから聞いてないの?」
「何を?」
「僕が何をしていたか」
三人は顔を見合わせる。
「聞いたよ?」
ミラベルが頷く。
「ずっと腹下して、のたうち回ってたんでしょ?」
「…………」
セレスはゆっくりノアを見た。
ノアは静かに目を逸らす。
「…………」
「…………」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
セレスは大きく息を吐いた。
そして、一呼吸置いてから。
地下路のことは伏せたまま、この数日間何をしていたのかを、できるだけ丁寧に説明し始めた。
「……というわけなんだ」
「なんだよ!」
ガルドは豪快に笑う。
「だったら最初から言えよ!」
バシンッ!
遠慮なくセレスの背中を叩く。
「痛っ」
「心配したんだぞ!」
一方で。
ミラベルとエルフィナは顔を見合わせると、ほっとしたように手を握り合った。
「よかったぁ……」
「元気だったんだね」
その笑顔を見て、セレスもようやく苦笑する。
「心配をかけて、ごめん」
そして、ふと辺りを見回した。
「……ところで」
「ノアは?」
さっきまでいた場所を見る。
誰もいない。
「……あれ?」
ガルドも辺りを見渡す。
「逃げたな」
誰かがぽつりと呟いた。
その瞬間。
セレスの額に、ぴくりと青筋が浮かぶ。
「……ノア」
笑顔だった。
だが、その笑顔が一番怖い。
その場にいた三人は、思わず身を寄せ合った。
(……怒ってる)
(セレスが、本気で怒ってる……)
普段は穏やかな彼の、誰も見たことのない怒りに。
三人はただ、小さく震えることしかできなかった。




