第71話 沈黙の教官
早朝。
特別科二年の五名――ミラベル、ノア、セレス、ガルド、エルフィナは、演習場へと集められていた。
朝靄に包まれた演習場には、いつもの教官たちだけではない。
黒い制服に身を包んだ王都の役人たちが、教官よりも前に立っていた。
教官たちは一歩後ろへ下がり、ただ静かにその場を見守っている。
張り詰めた空気の中、一人の男がゆっくりと歩み出た。
胸元には王家の紋章が輝いている。
男は五人を見渡し、感情のない声で告げた。
「諸君を集めた理由は一つだ」
「王家より直々に任務が下された」
演習場に静寂が広がる。
「各地に残る旧王家由来の守護具、および魔法具を回収せよ」
「以上が今回の任務である」
いつもなら、ここから教官が任務の詳細を説明する。
だが今日は違った。
王家直属の監察官が淡々と命令を読み上げるだけで、教官たちは誰一人として口を開かない。
その異様な光景に、一人違和感を覚える者がいた。
「……変だ」
セレスが小さく呟いた。
「何が?」
ミラベルが首を傾げる。
「今までは、王家からの命令でも教官を通して僕たちへ伝えられていた」
「王家の人間が直接命令することなんて、一度もなかった」
その時だった。
「そこ!」
監察官の鋭い声が響く。
「私語を慎め!」
セレスは小さく肩をすくめると、
「……失礼しました」
そう答え、前を向き直した。
監察官は五人を見渡し、冷たく言い放つ。
「以上だ。質問は受け付けない」
「解散!」
監察官たちは踵を返し、そのまま演習場を後にした。
重苦しい空気だけが、その場に残る。
ミラベルは近くにいた教官へ歩み寄る。
「教官……」
しかし教官は困ったように笑うだけだった。
「気にしなくていい」
それ以上は何も語らない。
その笑顔は、どこか苦しそうにも見えた。
演習場を離れながら、セレスは顎に手を当てて考え込む。
「今回の任務……」
「地方に残る旧王家由来の守護具や魔法具の回収」
「理由は『違法魔法具の管理』……か」
小さく息を吐く。
「……そんなはずはない」
「どうかしたか?」
隣を歩くノアが尋ねた。
セレスはすぐに表情を戻す。
「いや、何でもない」
「先を急ごう。監察官が僕たちを見ている気がする」
「そうだな」
五人は校舎へ戻り、任務の準備を始める。
「それなら私が持ちます」
エルフィナが荷物へ手を伸ばした。
「いい」
その手よりも早く、ノアが荷物を持ち上げる。
エルフィナの手が宙で止まった。
「……」
言葉が出ない。
ミラベルは二人を見比べ、柔らかく笑う。
「重い荷物はノアが持ってくれるから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃない」
ノアは前を向いたまま、小さく呟いた。
その一言に、エルフィナは何も返せなかった。
「はぁ? 俺、荷物持ちかよ」
ガルドが肩を落とす。
「いいじゃん。筋トレになるよ」
ミラベルがくすりと笑う。
「言うよなぁ……」
ぼやきながらも、ガルドは荷物を抱えて歩き出した。
そんな三人のやり取りを見つめながら、エルフィナは静かに拳を握りしめる。
まだ私は、仲間として認められていない――。
その想いだけが、胸の奥に重く残り続けていた。




