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第70話 それぞれの答え

訓練場には、木剣が打ち合わされる乾いた音が絶え間なく響いていた。


「はぁっ!」


ドンッ!!


鋭い一撃が木人を大きく吹き飛ばす。


間を置くことなく、ノアは次の木人へ踏み込んだ。


バキィッ!!


振り下ろされた木剣が胴を捉え、木人は真っ二つに砕け散る。


「……」


静かに木剣を下ろすノア。


その背中から漂う張り詰めた空気に、少し離れた場所で見守っていたセレスが苦笑した。


「なあ、ガルド」


「どうした」


「今日のノアは、いつにも増して近寄り難いな」


ガルドは肩をすくめる。


「ミラベルが怪我をしてから、ずっとあんな調子だ」


「心配なのは分かるが……少々、力の入れどころを間違えている気もする」


セレスがそう言った直後だった。


ドゴォンッ!!


また一体の木人が勢いよく吹き飛ぶ。


「……ほら」


「完全に八つ当たりだな」


「聞こえてるぞ」


ノアが振り返ることなく低く返す。


「聞かせているんだ」


セレスは涼しい顔で答えた。


「お前ら本当に……」


ガルドは呆れたように額へ手を当てる。


そしてノアへ視線を向けた。


「ミラベルも順調に回復している」


「少しは肩の力を抜け」


ノアは木剣を握り直し、小さく首を振る。


「……そういう話じゃない」


短く答えたあと、小さく息を吐く。


「あいつは……自分のことになると、無茶しかしない」


その声に滲んでいたのは怒りではない。


大切な仲間を失いかけた恐怖と、拭いきれない心配だった。


その時、訓練場の入口から明るい声が響く。


「遅れてごめーん!」


ミラベルとエルフィナが並んで姿を現した。


「あれ?ミラベル」


真っ先に声をかけたのはセレスだった。


穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。


「もう大丈夫なのかい?」


ミラベルは笑いながら答える。


「まだ激しい運動は禁止されてるけど、普通に歩くくらいなら平気!」


「そうか。それなら何よりだ」


セレスは安堵したように頷いた。


続いてガルドも歩み寄る。


「無事でよかった」


「焦らなくていい。しばらくはしっかり休め」


「うん!」


ミラベルは元気よく頷く。


その様子を少し離れた場所から見つめていたノアが、静かに歩み寄った。


ミラベルは自然と彼を見上げる。


「ノア。迷惑かけてごめんね」


「……もう無茶はするな」


短い一言。


だが、その言葉には何日も抱え続けた不安と安堵が詰まっていた。


ミラベルは優しく微笑み、素直に頷く。


「うん」


穏やかな空気が流れる。


しかし次の瞬間、ノアの視線がゆっくりとエルフィナへ向いた。


「……」


何も言わない。


責めることもしない。


それでも、その沈黙はどんな叱責よりも重かった。


エルフィナは小さく息をのみ、静かに目を伏せる。


あの日、自分は先へ進むことを選び、ミラベルを残した。


それが最善だったとしても、ミラベルが傷ついたという事実は消えない。


ミラベルは許してくれた。


だが、ノアはまだ割り切れてはいない。


「ノア?」


ミラベルが不思議そうに首を傾げる。


「……いや」


ノアは短く答えると、それ以上は何も言わず視線を外した。


その背中を見送りながら、エルフィナは静かに拳を握る。


(今はまだ、信じてもらえなくて当然。)


だからこそ、自分の行動で示すしかない。


そう胸に誓い、エルフィナも訓練場へと足を踏み出した。


再び、木剣が打ち合わされる乾いた音が訓練場に響き始めた。

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