第68話 仲間とは
ノアに肩を借りながら、ミラベルはゆっくりと身体を起こした。
「いたた……」
それでも、いつものように笑う。
「あはは……足を取られて、遅れちゃった」
「何笑ってんだ」
ノアが険しい表情で睨む。
「笑い事じゃねぇ」
ミラベルは困ったように笑みを浮かべた。
「みんなに追いつこうと思って急いでたんだけど……」
息を整えながら続ける。
「後ろから魔物が出てきて」
「咄嗟に攻撃魔法を撃ったんだけど、避けられちゃって……」
「そのまま反撃を受けちゃった」
「自分で治癒魔法はかけたから、見た目ほど酷くはないよ」
そう言いながらも、身体はふらついていた。
魔力の消耗は隠せない。
その時だった。
ミラベルの視線がエルフィナを捉える。
「あっ」
ほっとしたように笑う。
「エルフィナ、大丈夫?」
「……え?」
思わず声が漏れる。
「後ろから見てたら、右足を庇うように歩いてたから」
「怪我してない?」
エルフィナは言葉を失う。
(何で……)
そういえば。
あのぬかるみの少し手前。
石を踏んで、軽く足を捻った。
歩くのに支障はない程度だった。
だから気にも留めなかった。
「石があったから……」
ミラベルは安心したように微笑む。
「やっぱり!」
「挫いたのかなって思って」
「それで声を掛けたんだけど……」
「聞こえなかったみたいだったから」
笑顔でそう言うミラベルをみて、エルフィナの胸が締め付けられる。
(違う)
(聞こえてた)
(私は……)
「な、なんで……」
震えた声が漏れる。
「なんで、私なんかの心配を……」
ミラベルはきょとんとした顔をした。
「え?」
「だって仲間だもん」
その一言に、エルフィナは息を呑む。
「人の心配してる場合か!」
ノアが呆れたように声を荒げた。
「お前が一番ボロボロなんだぞ」
「あはは……」
ミラベルは苦笑するしかなかった。
セレスは周囲を見回した。
「任務は中断だ」
「俺は教官へ報告に行く」
「ガルド、伝令を頼めるか?」
「おう!」
ガルドは頷く。
セレスはエルフィナへ視線を向けた。
「エルフィナ、一人で歩けるか?」
「……ええ」
「なら、僕とノアでミラベルを――」
「いや」
ノアが短く遮る。
「俺一人でいい」
そう言うと、迷うことなくミラベルを抱き上げた。
「えっ!?」
「ちょ、ちょっと!」
「ゆっくりなら歩けるから!」
「降ろして!」
「黙ってろ」
ノアはぶっきらぼうに言い放つ。
「今のお前は負傷者だ」
ミラベルは困ったように笑い、小さく肩をすくめた。
その様子を見つめながら。
エルフィナは、ぎゅっと拳を握り締める。
(何よ……。)
胸の奥が苦しい。
(なんなのよ……。)
嫉妬して。
突き放して。
見捨てたつもりはなかった。
それでも――
傷ついたのは、ミラベルだった。
それなのに。
どうして。
どうして、この人は。
私のことなんか、心配するのよ……。




