第63話 暗闇の奥から
保管庫の奥。
闇の先を、四人は固唾を呑んで見つめていた。
「……来るぞ」
ノアが小さく囁く。
「うん」
セレスが息を潜めて頷いた。
ガルドは無言のまま拳を握り締める。
最後に、エルフィナがドレスの裾を押さえながら保管庫へ足を踏み入れた。
コツ……。
静寂の中、足音がゆっくりと近づいてくる。
コツ、コツ……。
その時――
バタン!
突然、背後の石扉が勢いよく閉まった。
「きゃあっ!」
エルフィナが思わず悲鳴を上げる。
三人は一斉に振り返った。
エルフィナは扉に駆け寄って、押す。
だが、扉はびくとも動かない。
重苦しい沈黙が流れる。
やがて闇の奥から、落ち着いた男の声が響いた。
「……誰だ」
足音が止まる。
次の瞬間、一人の男がゆっくりと姿を現した。
濃紺の長いローブをまとい、胸元には王家の紋章が刻まれた銀の徽章。
年の頃は五十代半ば。
鋭い眼差しが、四人を順に見据える。
「学生……か」
男は小さく息をついた。
「私は王家専属の宮廷魔導師だ」
男は短く名乗ると、倒れているドレイク伯爵へ視線を向けた。
「封印に異変を感じ、ここへ来た」
「来た時には、伯爵はすでに倒れていた」
「私は私の任務を遂行していただけだ」
そして、四人へ向き直る。
ノアは魔導師に向かって主張する。
「俺たちは、伯爵がここへ入っていくのを見た」
「隠し術式のようなものを使っていました」
セレスも続けた。
男は表情一つ変えない。
「それでも、お前たちには関係のない話だ」
「この先は王家が預かる」
静かな口調だったが、有無を言わせぬ威圧感があった。
「伯爵はこちらで保護する」
「今日はもう遅い。夜会もすでに終了した」
「ここを出て帰れ」
ノアは男を真っ直ぐ見つめる。
「……ミラベルは、どこですか」
男は眉をひそめた。
「ミラベル?」
「誰だ」
「ここに来ていませんでしたか?」
セレスも尋ねる。
宮廷魔導師は静かに首を横へ振る。
「私が来た時、この部屋にいたのは倒れていたドレイク伯爵だけだ」
「そして今いるのは、伯爵とお前たちだけ」
「それ以外の者は見ていない」
ノアは唇を噛み締めた。
あの術式、伯爵が倒れている理由……
気になることはあるが……それよりも、今はミラベルの行方だ。
ここにはいない。
ならば、別の場所を探すしかない。
「……行こう」
小さく呟く。
ガルドとセレスが頷き、エルフィナも名残惜しそうに保管庫を振り返った。
四人は石扉へ向かって歩き出す。
宮廷魔導師は無言のまま、その背中を見送った。
やがて静かに踵を返す。
倒れているドレイク伯爵の傍らにしゃがみ込み、その様子を静かに見つめた。
保管庫には、再び重い静寂が訪れるのだった。




