第61話 揺らぐ王城
⸻王城・西回廊。
「……それは、どういうことだ?」
ノアの低い声が響く。
「どういうって……私は何も」
エルフィナは困ったように言葉を詰まらせた。
「私が離れた後、ミラベルはいなくなっていて……男性と一緒にどこかへ行ったって聞いたわ」
その瞬間⸻
ゴゴゴゴゴ……。
床が大きく揺れた。
シャンデリアが軋み、テーブルの上のグラスが震える。
「なんだ!?」
ガルドが周囲を見回す。
ノアは咄嗟に西回廊の方角を見た。
先ほどの立入制限区域。
まるで、あの方向から揺れが伝わってきたような感覚が胸をよぎる。
「……さっきの場所だ!」
言い終わるより早く、駆け出していた。
(……ミラベル)
胸の奥を、不吉な予感がよぎる。
「おい、待て!」
ガルドが慌てて追いかける。
「二人とも、待って!」
エルフィナもドレスの裾を押さえながら、その後を追った。
⸻
一方、大広間。
揺れにより、会場は一時騒然となっていた。
「皆様、どうか落ち着いてください」
王家に仕える老臣が、一歩前へ出る。
落ち着いた声が、ざわめく会場へ響いた。
「現在、状況を確認しております」
その時、一人の侍従が老臣のもとへ駆け寄り、小声で何かを耳打ちした。
老臣は静かに頷く。
「皆様の安全を最優先とし、本日の夜会は、これにて終了とさせていただきます」
会場が再びざわめく。
「王女殿下も、皆様にお目にかかれなかったことを大変残念に思っておられます」
「いずれ改めて、このような席を設けさせていただきます。その際は、ぜひお越しください」
老臣は深く一礼した。
「馬車の準備は整っております。どうぞ係の案内に従い、お気をつけてお帰りください」
侍従たちが静かに動き出し、貴族たちは出口へと誘導されていく。
「残念だったわね」
「一体、何だったのかしら」
「魔法事故……というわけでもなさそうだ」
様々な声が飛び交いながら、人の流れができていく。
⸻
その頃。
セレスは出口へ向かう人波に押されていた。
「すみません、通してください」
人混みをかき分けた、その時。
視界の端に、一人の男の姿が映る。
「……セドリック先輩?」
人混みの奥。
セドリックは誰かを追うように足早に歩いていた。
「待って!」
追いかける。
しかし。
人波に遮られ、その姿は角の向こうへ消えてしまう。
「しまった……」
セレスが角を曲がる。
その先には⸻
「セレス!」
ノアたちが駆けてきた。
「ノア!」
「今、セドリック先輩がこの先へ⸻」
言いかけた、その時。
ガルドが壁際を指差す。
「……あれ、扉じゃないか?」
そこには、先ほどまで存在しなかったはずの重厚な石扉が静かに口を開けていた。
ノアは警戒しながら近づく。
扉の前。
一人の男が倒れている。
「……ドレイク伯爵!」
意識はない。
呼吸はある。
だが、返事はなかった。
ノアはゆっくりと顔を上げる。
封印保管庫。
その扉は、静かに開かれていた。
中は闇。
底すら見えない。
誰も言葉を発しない。
その時だった。
コツ……。
闇の奥から。
微かに、足音が聞こえた。




