第6話 差し伸べた手と、初めての選択
ー訓練場・適性測定会場
張りつめた空気は、まだ消えていなかった。
亀裂の入った水晶。
ざわめく新入生たち。
そして——
自分に向けられる無数の視線。
(……見られてる)
胸が苦しくなる。
逃げたい。
消えてしまいたい。
そんな衝動を押し込めるように、
ぎゅっと胸元を押さえた。
「……測定は続ける」
教官の低い声が響く。
その一言で、
どうにか場が動き始めた。
「次は属性発現の確認を行う」
別の魔法具が並べられる。
火、水、風、土——
基礎属性を引き出すための試験。
新入生たちは、緊張しながら順に前へ出ていく。
小さな火花。
水の雫。
弱い風。
そのたびに、小さな歓声が上がる。
「……さっきすごかったね」
リナが小さく呟く。
振り向くと、目を丸くしながら、少し震える声で続けた。
「びっくりしたけど……なんだか、あたたかい光だったね……」
「うん、私もびっくりした」
そう答えるしかできなかった。
自分でも、何が起きたのか分からない。
⸻
他の生徒たちも順に試験を受ける。
「次」
少女が前へ呼ばれる。
細い肩が震えている。
見るからに怯えていた。
魔法具を受け取り、
おそるおそる魔力を流した——
その瞬間。
ボッ——!!
炎が噴き上がった。
「きゃっ!?」
少女が悲鳴を上げる。
炎は消えない。
むしろ渦を巻いて膨れ上がる。
「まずい——暴走だ!」
教官が動く。
だが発現が速すぎる。
炎はすでに少女を飲み込もうとしていた。
(……っ)
周囲が凍りつく。
誰も動けない。
その瞬間——
胸の奥で、声がした。
関わるな。
助けても、
どうせ傷つくだけだ。
前世の記憶がよぎる。
見捨てられた記憶。
信じて、裏切られた記憶。
炎の向こうで、
少女の怯えた目が見えた。
——あの時の、私と同じ。
胸が痛む。
怖い。
また傷つくのが怖い。
それでも——
(……見捨てる方が、もっと怖い)
気づけば、
走り出していた。
「ミラベル!?」
リナの声が遠くなる。
炎の前へ飛び込む。
熱い。
息が焼ける。
それでも——手を伸ばす。
(お願い……!)
胸元のペンダントが、強く光った。
その瞬間——
光が広がる。
柔らかく。
包み込むように。
炎に触れた瞬間——
それは、音もなく消えた。
静寂。
さっきまで荒れていた炎は、
跡形もない。
「……え……?」
少女が呆然と呟く。
誰も動かない。
教官でさえ、
目を見開いていた。
(……止まった……?)
自分でも、分からない。
ただ——
助けたいと思っただけだった。
足から力が抜ける。
「大丈夫!?」
リナが駆け寄る。
「……うん……」
心臓が激しく鳴っている。
怖い。
自分の力が、
分からないことが怖い。
けれど——
助けられた少女が、
震える声で言った。
「……ありがとう」
その言葉に、
息が詰まる。
(……ありがとう……?)
そんな言葉、
向けられたことがなかった。
「……別に」
それだけしか言えない。
でも——
胸の奥が、
少しだけ温かかった。
⸻
離れた場所で、
教官たちが低く話していた。
「今の、見たか」
「……間違いない」
その視線は、
明らかにミラベルへ向けられている。
そのさらに後ろ——
黒い影が、立っていた。
輪郭しかない存在。
「……適合」
低い声だけが落ちる。
次の瞬間、
影は消えていた。
ミラベルはまだ知らない。
この力が、
どれ程のものかを——
読んで頂きありがとうございます。




