第5話: 試される力と、知らない自分
学園の門をくぐった瞬間——空気が変わった。
(……重い……?)
思わず足が止まりかける。
見えない何かが、この場所全体に満ちているようだった。
押し返されるような、奇妙な圧迫感。
けれど——
「どうしたの?」
隣を歩くリナは、不思議そうに首を傾げるだけ。
「……なんでもない」
(……私だけ、感じてる?)
違和感を胸の奥に押し込み、前を向く。
ここで止まるわけにはいかない。
⸻
案内されたのは、広大な石造りの訓練場だった。
すでに多くの新入生が集まり、
ざわめきと緊張が渦巻いている。
(……試される)
その空気に、胸が強く締めつけられた。
評価。
選別。
切り捨て。
前世で何度も味わった感覚が蘇り、
指先がわずかに震える。
——その時。
「静かに」
低く、よく通る声が場を断ち切った。
視線を上げると、
鋭い眼差しの教官が立っていた。
無駄のない立ち姿。
一切の隙がない。
「これより、適性測定を行う」
空気が一瞬で張り詰める。
教官が示したのは、
台座に置かれた水晶の球体だった。
「順に触れろ。
魔力の質と量を測定する」
新入生たちが、一人ずつ前へ出る。
淡く光る者。
ほとんど反応のない者。
小さく歓声が上がることもあれば、
落胆したように肩を落とす者もいる。
そのたびに、場がざわめいた。
「次」
呼ばれて、身体が強張る。
(……私)
足が重い。
逃げたい。
けれど——
逃げたら、また同じになる。
ゆっくりと前へ進む。
水晶へ手を伸ばす。
その瞬間——
(……っ)
胸元のペンダントが熱を帯びた。
脈打つように。
まるで、水晶に呼応するように。
(なに——)
指先が、水晶に触れる。
眩い光が爆発した。
「——っ!?」
訓練場の空気が揺れる。
水晶だけじゃない。
周囲に置かれた魔法具までもが、
一斉に微かに震え始める。
ざわめきが悲鳴に変わる。
「なんだ!?」
「魔力暴走か!?」
光は溢れ続ける
ピシッ。
乾いた音が響いた。
水晶の表面に、細い亀裂が走る。
「……な……」
教官の表情が、初めて崩れた。
さらに——
ピキ、ピキッ……
亀裂が広がる。
(止めなきゃ……!)
恐怖が胸を締めつける。
ふっと。
光が消えた。
静寂。
張りつめた沈黙だけが残る。
誰も動かない。
全員の視線が、
ミラベルに突き刺さっていた。
教官が、ゆっくり口を開く。
「……今のは、お前がやったのか?」
「……わ、わかりません……」
嘘じゃない。
本当に分からない。
ただ——
胸の奥で、“何か”が動いた。
それだけは、確かだった。
教官は無言のまま、
亀裂の入った水晶を見る。
その目に浮かんでいたのは、
驚きだけではなかった。
(……なに……これ……)
手が、震えていた。
自分の中に、
自分の知らないものがある。
その事実だけが——
ひどく怖かった。
そして——
「……観測」
誰かが、そう呟いた気がした。
けれど振り向いた時には、
そこにいるのは教官たちだけだった。
試験は、まだ終わっていない。
けれどミラベルは、
まだ知らない。
この異常が、
ただの“測定ミス”では終わらないことを。
そして——
自分の中に眠る力が、
学園そのものを揺るがすことになると。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。




