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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第48話 選んだ答え

——国境の森・入口


炎は、先ほどまでの勢いを失っていた。


燃え上がる獣の姿は崩れ、今は黒い煙だけがゆっくりと空へ昇っている。


ガルドが荒い息を吐く。


「……終わったのか?」


エルフィナは炎の跡を見つめる。


「完全に消えたわけではありません」


「ですが、先ほどほどの力は残っていないでしょう」


ノアは剣を下ろした。


その瞬間。


違和感が走る。


「……」


周囲を見る。


「ミラベルは?」


返事はない。


セレスの表情が変わった。


「……いない」


ガルドが森の奥を見る。


「吹き飛ばされた場所は?」


「探す」


ノアが踏み出す。


だが。


空を見上げる。


太陽は、もう沈み始めていた。


森の奥は、少しずつ闇に包まれている。


セレスが静かに口を開く。


「ノア」


「分かってる」


ノアは拳を握った。


本当は今すぐ探したい。


一人で森の中にいるミラベルを。


でも。


ここで判断を間違えれば、自分たちまで戻れなくなる。


「……一旦、村へ戻る」


ガルドが眉をひそめる。


「帰るのかよ」


セレスは村の方を見る。


「そうだね」


「ミラベルが戻っている可能性もある」


「先に村を確認しよう」


納得したわけではない。


それでも。


四人は森を後にした。


――――


日の落ちる前。


四人は国境の村へ戻った。


もしかしたら。


もしかしたら、ミラベルが先に戻っているかもしれない。


そんな僅かな期待を抱いて。


だが。


「……帰ってない?」


ノアの声が落ちる。


村人は気まずそうに視線を逸らし、静かに首を振った。


「帰ってないだと!?」


珍しく、ノアが声を荒げる。


「そんな……」


セレスが呟く。


ガルドは森の方を見た。


「子供じゃねぇんだ」


「勝手に消えたなら、自分で戻ってくるだろ」


そう言いながら、地面にしゃがみ込む。


だが、その表情は険しかった。


エルフィナが淡々と言う。


「まずは学園へ現状報告を」


「指示を待つべきです」


「そんな悠長なこと言ってられるか!」


ノアが声を荒げる。


「暗くなったら、僕らまで森に迷う」


セレスがノアの前に立つ。


「分かってる」


「僕だって探したい」


その時だった。


背後から、老人の声が響く。


「無駄じゃよ」


「……何?」


ノアが振り返る。


老人は森を見つめたまま言った。


「もうすぐ日が暮れる」


そして。


「それに――」


少し間を置く。


「ミラベルは戻らない」


「……まだ、な」


その言葉だけが、不自然に残った。


――――


夜が明ける。


村外れ。


森の方から、一人の影が歩いてくる。


ミラベルだった。


足取りはゆっくり。


けれど、迷いはない。


その顔には、昨日までとは違う静けさがあった。


「……ミラベル!」


声が飛ぶ。


ノアが駆け寄る。


その後ろから、三人も続いた。


ノアは眉をひそめる。


「どこにいた」


短い言葉。


けれど、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。


ミラベルは一瞬、言葉に詰まる。


(……言えない)


燃える街。


知らない記憶。


あの声。


全部を説明するには、まだ自分でも理解できていなかった。


「……森の奥」


それだけを答える。


セレスが一歩近づく。


「何かあった?」


その声には、いつもの冷静さはなかった。


心配が滲んでいる。


ミラベルは小さく頷く。


「うん……」


「でも」


少し迷って。


「……うまく言えない」


セレスは小さく笑った。


「そっか」


それ以上は聞かなかった。


ガルドが一歩前へ出る。


「勝手に消えるなよ」


声は荒い。


「一人の行動で、みんなが迷惑するんだ」


ミラベルは少し驚いた顔をする。


「……ごめん」


その一言で。


ガルドは視線を逸らした。


何か言いかけて。


やめる。


エルフィナは何も言わない。


ただ、ミラベルを見ていた。


その視線は。


以前のような評価ではなく。


何かを確かめるものへ変わっていた。


「戻るぞ」


ノアが言う。


「任務はまだ終わってない」


――――


村中央・簡易拠点。


五人は焼け跡の調査を再開していた。


火の発生源。


魔物が現れた理由。


そして――森との関係。


セレスがしゃがみ込み、地面に触れる。


「これ……自然じゃない」


黒く焼けた地面。


だが、広がり方が不自然だった。


「外から燃えたんじゃない」


「内側から、噴き出してる」


エルフィナが続ける。


「魔力の圧縮……」


一瞬、考え直す。


「いいえ」


「外部から流入した魔力による強制発火です」


ノアが森を見る。


「原因は……森か」


ミラベルは黙って聞いていた。


胸元に手を当てる。


ペンダントは静かだった。


その時。


「無事だったようじゃな」


ゆっくりと歩いてくる影。


昨日の老人だった。


穏やかな声。


だが。


その目は、まっすぐミラベルを見ている。


ミラベルは一歩前へ出た。


「……あの石碑」


「何なんですか」


老人は少しだけ笑う。


「見えたのじゃな」


ミラベルが息を飲む。


老人は森を見る。


「あれは守りではない」


「……え?」


「守るためだけに存在するものではない」


風が吹く。


「選ぶ者に応えるものじゃ」


セレスが眉をひそめる。


「選ぶ……?」


老人は頷く。


「守るか」


「捨てるか」


「その選択に反応する」


ノアが問う。


「誰が作った」


老人は少し黙った。


そして。


「人を愛した者」


「失いたくないと願った者」


ミラベルの胸が強く鳴る。


あの記憶。


あの声。


ガルドが吐き捨てる。


「なんだよそれ……意味わかんねぇ」


エルフィナが静かに問う。


「あなたは」


「守られているのでしょうか」


一歩。


ミラベルを見る。


「つまり――」


そこで言葉を止める。


ガルドが苛立つ。


「はっきり言えよ」


「煮え切らねぇな」


その瞬間。


風が、逆流した。


ミラベルの内側。


声が響く。


(……気をつけろ)


低い声。


かすれている。


感情を押し殺したような声。


(……誰……?)


返事はない。


けれど確かに。


そこにいる。


老人はミラベルを見る。


そして。


小さく目を細めた。


「……変わったな」


ミラベルは胸元を握る。


守るか。


選ぶなら。


「……私は」


息を吐く。


「守る」


小さい声。


でも。


迷いはなかった。


「見捨てる方が……怖いから」


誰も否定しない。


ただ一人。


ガルドだけが、強く拳を握っていた。


その言葉が。


なぜか胸に引っかかるように。


森の木々が揺れる。


ミラベルは、その奥を見つめていた。

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