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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第41話 在るべき場所

闇の中で、赤い瞳が開いた。


ミラベルは思わず息を呑んだ。


亀裂の奥で、無数の赤い光が揺れている。


低い唸り声。


岩を削る音。


何かがいる。


それも、一体や二体ではない。


「下がれ」


ノアが一歩前へ出た。


剣を抜く。


銀色の刃が海底の光を反射した。


セレスも前へ出る。


指先を軽く開くと、掌の上に淡い魔法陣が浮かび上がった。


ミラベルも胸元のペンダントを握る。


緊張が走る。


魔獣たちが飛びかかる。


だが。


ガリッ——


鋭い爪が見えない壁を引っ掻いた。


「……?」


ミラベルは眉をひそめた。


魔獣たちは確かにこちらを見ている。


敵意もある。


襲う気もある。


それなのに近付けない。


「何かがおかしい」


セレスが周囲へ視線を巡らせる。


淡く輝く結晶。


その周囲を泳ぐ魚たち。


そして巨大な魚。


青白い瞳は、静かに亀裂の向こうを見据えていた。


「結界……か」


セレスが小さく呟く。


「結界?」


「この空間全体が守られている」


ミラベルは結晶へ目を向けた。


青い光が揺れる。


まるで呼吸をするように。


その瞬間。


再び魔獣たちが唸り声を上げた。


何度も何度も前へ出ようとしている。


だが入れない。


結晶のある場所へ。


魚たちのいる場所へ。


巨大な魚のいる場所へ。


「もしかして……」


ミラベルは呟く。


『封印核を持ち帰れなかった場合、不合格だ』


教官の言葉が脳裏を過る。


置いていけば、不合格かもしれない。


それでも。


ミラベルは結晶から目を離さなかった。


もし、この結晶がここにあることで役割を果たしているのだとしたら。


「ミラベル?」


ノアが振り返る。


ミラベルは結晶を見つめたまま言った。


「これ……持って帰っていいものなのかな」


セレスも結晶を見る。


そして亀裂の向こうを見る。


赤い瞳。


入り込めない魔獣たち。


やがて静かに口を開いた。


「少なくとも、持ち出した後どうなるかは分からない」


「結界が消えるかもしれないってことか」


ノアが言う。


セレスは頷いた。


「可能性はある」


三人は黙った。


正解は分からない。


ミラベルは胸元のペンダントを握り締めた。


魚たちの泳ぐ姿を見渡す。


どこか穏やかな光景だった。


まるで長い間、この場所を守り続けてきたような。


その静けさを壊してはいけない気がした。


「私は……」


小さく息を吸う。


「置いていきたい」


ノアは結晶を見た。


そして短く答える。


「俺もだ」


セレスは少しだけ笑った。


「多数決なら決まりだね」


その時だった。


巨大な魚がゆっくりと目を閉じる。


魚たちが結晶の周囲を泳ぐ。


海底を満たしていた空気が、わずかに和らいだ気がした。


偶然かもしれない。


気のせいかもしれない。


それでも三人は同じことを思った。


——これで良かったのだと。


足元に光が広がる。


帰還の魔法陣。


試験終了の合図だった。


ミラベルは最後にもう一度だけ振り返る。


青く輝く結晶。


巨大な魚。


静かな海。


それらは変わらずそこにあった。


在るべき場所に。


光が三人を包む。


次の瞬間。


視界が白く染まった。



学園中央広場。


帰還した生徒たちが次々と試験官の前へ進み出る。


皆、魔法陣、核を手にしていた。


討伐の証。


それぞれの成果を報告していた。


やがて。


ミラベルたちの番が来る。


試験官の前へ立つ三人。


その手には——何もない。


試験官が静かに問いかけた。


「成果は」


ミラベルは真っ直ぐ顔を上げる。


そして答えた。


「ありません」


広場がざわついた。


それでもミラベルは続ける。


「あれは、あの場所に在るべきものだと思いました」


試験官は何も言わない。


ただ三人を見つめている。


そして――。


その少し後ろで。


王家直属監察局だけが、険しい表情を浮かべていた。


その視線は、


手ぶらで帰還した三人ではなく。


彼らを見つめる試験官へ向けられていた。

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