第40話 静寂の終わり
ゴゴゴゴゴゴ——
海底を揺るがす轟音が響いた。
静寂に包まれていた世界が震える。
ミラベルは思わず身を縮めた。
白い砂が舞い上がる。
魚たちがざわめく。
巨大な魚もゆっくりと顔を上げた。
青白い瞳が遠くを見つめている。
何かが来る。
そう直感した。
次の瞬間だった。
ドォォォン!!
凄まじい衝撃音。
遠くの岩壁が砕け散る。
砂煙が舞う。
ミラベルは反射的に目を閉じた。
頬に風圧がぶつかる。
何が起きたのか分からない。
だが。
聞き慣れた声が響いた。
「ミラベル!」
はっと顔を上げる。
その声は——
「ノア!」
思わず叫ぶ。
砕けた岩壁の向こう。
そこには剣を手にしたノアが立っていた。
その少し後ろには、砂を払いながら歩いてくるセレスの姿もある。
「セレス!」
胸の奥が熱くなる。
無事だった。
本当に無事だった。
ずっと抱えていた不安が、一気に溶けていく。
ミラベルは駆け出した。
「二人とも……!」
ノアはミラベルの姿を確認すると、小さく息を吐いた。
その表情はいつも通りだった。
けれど、どこか安心したようにも見える。
「無事か」
短い一言。
ミラベルは何度も頷いた。
「うん!」
その横でセレスも肩の力を抜く。
「よかった。本当に」
珍しく心から安堵した声だった。
しばらく三人の間に言葉はなかった。
ただ再会できたことが嬉しかった。
だが。
その穏やかな空気は長く続かなかった。
ざわり——
魚たちが一斉に動きを止める。
ミラベルが振り返る。
銀色の魚たちが、結晶の周囲へ集まり始めていた。
先ほどまで穏やかに泳いでいたはずなのに。
どこか落ち着かない様子で。
「……どうしたんだろう」
ミラベルが呟く。
セレスも魚たちへ視線を向けた。
そして眉をひそめる。
「様子がおかしい」
巨大な魚もまた、静かに身を起こしていた。
青白い瞳は、ノアたちが現れた穴の向こうを見ている。
まるで警戒するように。
その時だった。
ガリッ——
嫌な音が響く。
砕けた壁の奥。
暗い亀裂の向こうで何かが動いた。
ノアの表情が変わる。
剣へ手をかける。
セレスも杖を握り直した。
そして。
闇の中で、赤い瞳がゆっくりと開いた。




