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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第39話 海中の青い瞳

ペンダントだけが、強く脈打っていた。


ミラベルは息を詰める。


青い闇の奥。


巨大な影がゆっくりと動く。


近付いてくる。


逃げなければ。


そう思うのに、足は動かなかった。


足元の魔法陣は静かに輝いている。


不思議と危険な気配は感じない。


それなのに胸だけが高鳴っていた。


影はゆっくりと光の中へ入る。


そして。


「……っ」


ミラベルは目を見開いた。


巨大な魚だった。


青白い鱗。


長くしなやかな身体。


ゆるやかに揺れる尾。


まるで海そのものが形を得たような存在。


その姿には威圧感があった。


けれど、禍々しさはない。


むしろ神秘的だった。


魚はゆっくりと目を開く。


深い海の色を宿した青白い瞳。


その瞳が、真っ直ぐミラベルを映した。


見つめられる。


ただそれだけなのに。


心の奥まで見透かされているような感覚がした。


ミラベルは思わず息を呑む。


魚は動かない。


ただ静かにこちらを見ている。


その時だった。


ふわり、と。


銀色の光が横切る。


「……あ」


小さな魚だった。


掌ほどの大きさしかない。


光を受けて鱗がきらきらと輝いている。


一匹。


また一匹。


気付けば周囲にはたくさんの魚たちが集まっていた。


魚たちは巨大な魚の周囲を泳ぎながら、魔法陣の上をゆったりと巡っている。


まるでこの場所を守るように。


あるいは。


大きな魚に寄り添う家族のように。


ミラベルは目を細めた。


ここへ来るまで感じていた不安が、少しずつ薄れていく。


魔物の気配はない。


嫌な視線もない。


ただ静かな海の世界が広がっていた。


「……素敵な場所だね」


思わず声が漏れる。


魚たちは答えない。


だが。


巨大な魚は静かにミラベルの周囲を泳ぎ始めた。


一周。


また一周。


確かめるように。


見定めるように。


やがて正面で止まる。


ミラベルは思わず苦笑した。


試されている気がする。


理由は分からない。


それでも、不思議と怖くはなかった。


胸元のペンダントも、先ほどまでの激しい脈動が嘘のように穏やかな光を放っている。


まるで安心したように。


ミラベルは魔法陣の中心へ視線を向けた。


そこには淡く輝く結晶が浮かんでいる。


青白い光。


静かな輝き。


そして、それを囲む魚たち。


「……綺麗」


自然と声が零れた。


こんな状況なのに。


帰れるかも分からないのに。


それでも今だけは、この景色に見入ってしまう。


ミラベルは巨大な魚へ向き直る。


「勝手に入ってきて、ごめんね」


小さく呟く。


魚は何も答えない。


けれど青白い瞳は静かにミラベルを見つめていた。


「でも……すごく綺麗だった」


魚たちが光の中を泳ぐ。


魔法陣が静かに輝く。


まるで長い時間守られてきた聖域のようだった。


ミラベルは少しだけ笑う。


そして踵を返しかけた、その時——


ゴゴゴゴゴゴ……。


低い振動が響いた。


海底そのものが揺れる。


魚たちの動きが止まる。


巨大な魚がゆっくりと顔を上げた。


青い瞳が、遠くの闇を見つめている。


ミラベルも振り返る。


光の届かない海の奥。


その先で何かが起きていた。


静寂に包まれていた世界へ、異物が入り込もうとしている。


そんな予感がした。

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