第38話 海底の道標
頭上では、出口の光が静かに揺れていた。
ようやく帰れる。
そう思った、その時だった。
ノアの足が止まる。
「……どうしたの?」
セレスが振り返る。
ノアは出口を見ていなかった。
「ミラベル」
短い一言。
セレスは目を瞬いた。
「……そういえば、ミラベルはどうしたの?」
「待てと言った」
ノアが呟く。
「……待てるかな?」
セレスの言葉に、ノアは
「嫌な予感がする」
「だね」
二人は出口に背を向ける。
「探すぞ」
迷いのない声だった。
⸻
「……はぁ」
ミラベルは足を止めた。
どれくらい歩いただろう。
分からない。
歩いても歩いても景色は変わらない。
白い砂。
青い海。
揺れる光。
それだけだった。
(本当に、こっちで合ってるのかな……)
不安になる。
立ち止まりたくなる。
けれど。
立ち止まったところで何も変わらない。
(ノアたちは無事かな)
胸がきゅっと締め付けられる。
最後に見たのは、二人が渦に飲み込まれる姿だった。
追いかけた。
助けたかった。
でも気付けば一人だった。
(私だけ違う場所に来たのかな)
(もう会えないなんてこと……)
そこまで考えて、首を振る。
嫌な想像はしたくなかった。
「大丈夫」
自分に言い聞かせるように呟く。
「きっと大丈夫」
声は少し震えていた。
胸元に手を添える。
ペンダントは今も淡く光っている。
この場所に来てから、ずっと。
まるで何かを伝えようとするみたいに。
「……頼りにしてるよ」
そう呟いた瞬間だった。
ペンダントの光が強くなる。
「え……?」
熱い。
今までで一番強い反応だった。
鼓動のように脈打つ。
導くように。
呼ぶように。
その時。
足元の砂がさらさらと崩れ始めた。
「きゃっ!?」
慌てて飛び退く。
白い砂の下から現れたのは、巨大な魔法陣だった。
幾重にも重なる円。
複雑に絡み合う紋様。
淡い青白い光。
ミラベルは息を呑む。
黒く侵食された封印とは違う。
見ているだけで心が落ち着くような、不思議な力を感じた。
「……綺麗」
思わず呟く。
魔法陣の中心には、小さな結晶が浮かんでいた。
淡く輝く光。
(これなんだろう)
不思議と目が離せなかった。
その時だった。
ふわり、と。
何かが横切った。
銀色の光。
「魚……?」
ミラベルは目を凝らす。
だが姿は見えない。
気のせいだったのだろうか。
そう思った瞬間。
ぞくり、と背筋が震えた。
何かいる。
海の奥。
光の届かない青い闇の中。
巨大な影がゆっくりと動いていた。
ミラベルは息を呑む。
逃げなければ。
そう思うのに、動けない。
ペンダントだけが、強く脈打っていた。




