第37話 見覚えのある光
轟音と共に、遠くの闇が崩れ落ちた。
魔獣たちがざわめく。
セレスは杖を構えたまま、その方向を見据える。
何かが来る。
巨大な何かが。
次の瞬間。
さらに大きな破砕音が響いた。
黒い壁が吹き飛ぶ。
瓦礫が宙を舞う。
その向こうから現れた人影を見て、セレスは目を瞬いた。
「……ノア?」
「いた」
短い返事だった。
まるで散歩の途中で見つけたような口ぶりである。
セレスは崩れた壁を見る。
大穴が空いていた。
どう見ても正規の通路ではない。
「君……」
思わず額を押さえる。
「普通、壁を壊して進む?」
ノアは首を傾げた。
「道がなかった」
「だから壊したのかい?」
「ああ」
当然のように答える。
セレスは深いため息を吐いた。
自分は術式を観察し、侵食を調べ、仮説を立てていた。
ノアは壁を壊していた。
辿り着いた結果は同じである。
納得できない。
だが今はそれどころではなかった。
⸻
魔獣たちが唸り声を上げる。
侵入者が増えたことで警戒したのだろう。
赤い瞳が一斉に二人へ向く。
「来るぞ」
ノアが剣を構える。
セレスも杖を握り直した。
次の瞬間。
魔獣の群れが襲い掛かる。
閃光が走る。
剣が唸る。
魔法が炸裂する。
侵食された魔獣たちは次々と倒れていく。
だが。
奥からまた現れる。
さらにその奥からも。
「きりがないな……」
セレスが眉をひそめた。
「なら奥へ行く」
ノアは前へ進む。
セレスも頷いた。
ここに留まる方が危険だ。
⸻
二人は魔獣を蹴散らしながら進む。
やがて。
空間の奥で、強い光が見えた。
「……あれは」
巨大な円環。
その中心で光が渦巻いている。
出口のようにも見える。
だが周囲には複雑な術式が絡みついていた。
セレスは目を細める。
文字列を追う。
侵食された部分。
欠けた術式。
崩れた構造。
読めない。
何度見ても答えは出なかった。
「どうだ」
ノアが尋ねる。
セレスは首を振る。
「分からない」
その言葉は重かった。
認めたくはない。
だが事実だった。
「出口かもしれない」
「かもしれない?」
「違うかもしれない」
ノアは黙る。
セレスも黙る。
数秒の沈黙。
そして。
ノアは剣を抜いた。
「ノア?」
「分からないんだろ」
「それはそうだけど——」
「なら進む」
「待っ——」
轟音。
剣が振り下ろされる。
術式の一部が砕け散った。
空間全体が震える。
青白い文字列が激しく明滅した。
セレスは思わず目を見開く。
「君は本当に……!」
だが。
次の瞬間。
円環の光が強く輝いた。
閉ざされていた中心部が開いていく。
まるで道を示すように。
ノアは肩越しに振り返る。
「開いたぞ」
セレスは天を仰いだ。
理論も。
検証も。
仮説も。
全部吹き飛ばされた気分だった。
「……結果だけ見れば正解だね」
「そうか」
「そうだよ」
納得はしていない。
だが出口らしきものが現れたのも事実だった。
⸻
光が渦を巻く。
閉ざされていた出口が、
ゆっくりと開いていく。
ノアは剣を肩に担いだ。
「戻れそうだな」
「ああ」
セレスも小さく息を吐く。
ようやく終わる。
そう思った。
二人は出口へ向かって歩き出す。
光が近づく。
それは久しぶりに見る明るさだった。




