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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第36話 未知の深淵

冷たい感触が頬を撫でた。


セレスはゆっくりと目を開く。


「……っ」


視界に広がったのは、見たことのない光景だった。


青でもない。


黒でもない。


薄暗い空間。


どこまでも続く闇の中を、無数の光が流れている。


海流のように。


星々の軌跡のように。


ゆっくりと。


絶え間なく。


「……何だ、ここは」


身体を起こす。


足元はある。


だが地面と呼んでいいのか分からない。


半透明の床。


揺らめく光がその下を流れている。


まるで巨大な水面の上に立っているようだった。


頭上を見上げる。


そこにも同じ光景が広がっている。


空もない。


海もない。


上下の感覚さえ曖昧になる。


「……異空間?」


思わず呟く。


だが、自分の知識の中に答えはなかった。


セレスは慎重に周囲を見回す。


すると。


遠くの空間に、青白い光の帯が浮かんでいるのが見えた。


いや。


帯ではない。


文字だ。


無数の文字列。


それらが螺旋を描きながら空間を貫いている。


巨大な術式。


あまりにも巨大で、一目では全体像すら把握できない。


セレスは息を呑んだ。


「術式……なのか?」


近づく。


指先を伸ばす。


触れる寸前で止めた。


魔力の流れが見える。


一文字ごとに意味を持ち。


複雑に絡み合い。


巨大な円環を形成している。


まるで。


空間そのものが魔法陣だった。


「あり得ない……」


その言葉が漏れる。


セレスの把握するもの、そのどれとも一致しない。


だが。


見覚えだけはあった。


黒く変色した魔法陣。


進級試験で見たあの封印。


その構造とどこか似ている。


「まさか……」


セレスは眉をひそめる。


封印の内部。


そんな馬鹿げた仮説が頭をよぎった。


だが否定する材料もない。


むしろ今の状況を説明できるのは、それくらいだった。


セレスは術式を観察する。


文字を追う。


だが途中で途切れている。


侵食されていた。


黒い染みのようなものが文字列を覆っている。


正常な部分は青白く輝いているのに。


侵食された箇所だけが黒い。


ひび割れたように崩れていた。


「読めない……」


断片なら分かる。


封印。


境界。


深淵。


維持。


そんな単語が見える。


だが繋がらない。


肝心な部分が欠けている。


「情報が足りないな……」


小さく息を吐く。


術式の正体も。


ここがどこなのかも。


脱出方法も。


何一つ分からない。


初めてだった。


知識を絞り出しても答えに辿り着けない状況は。


その時だった。


ぞわり。


背筋を何かが這い上がる。


セレスは振り返った。


空間の奥。


黒い染みが揺れている。


違う。


動いている。


そこから現れたのは魚ではなかった。


異形だった。


細長い身体。


歪な顎。


赤く濁った瞳。


まるで侵食そのものが形を得たような魔獣。


「……なるほど」


セレスは静かに魔法陣を展開する。


魔獣は一体ではなかった。


闇の奥から次々と現れる。


「歓迎はされていないらしい」


光弾が走る。


一体が消し飛ぶ。


だが。


また現れる。


さらに奥から。


また一体。


また一体。


終わりが見えない。


セレスは奥歯を噛んだ。


「厄介だな……」


魔力は有限だ。


ここで消耗を続ければ、いずれ限界が来る。


だが他に道も見つからない。


その時。


ゴゴゴゴゴ……。


低い振動が響いた。


空間全体が震える。


術式の文字列が揺らめく。


魔獣たちがざわめいた。


セレスの表情が変わる。


これは魔獣ではない。


もっと大きい。


もっと巨大な何かだ。


音は近づいてくる。


一歩。


また一歩。


何かがこちらへ向かっている。


セレスは身構える。


魔獣の群れ。


未知の空間。


迫る巨大な存在。


状況は最悪だった。


「……冗談だろ」


そして。


轟音と共に、遠くの闇が崩れ落ちた。

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