第35話 木漏れ日の海底
眩しい。
閉じていた瞼の向こうから、
柔らかな光が差し込んでくる。
ミラベルはゆっくりと目を開けた。
「……ん……」
身体を起こす。
冷たい石の感触。
(……ここは?)
頭がぼんやりする。
何が起きたのか、
すぐには思い出せない。
辺りを見回す。
誰もいなかった。
「……あれ?」
思わず声が漏れる。
(ノアは?)
(セレスは……?)
胸の奥がざわりと揺れた。
確か――
黒い魔法陣。
亀裂。
渦。
セレスが吸い込まれて。
ノアが追いかけて。
そして自分も――
(そうだ……)
(私も、あの渦に……)
そこから先の記憶はない。
「ノア?」
呼んでみる。
返事はない。
「セレス……?」
聞こえるのは、
遠くから響く水音だけだった。
(いない……)
胸がきゅっと縮こまる。
(まさか、本当に一人……?)
慌てて立ち上がった。
その時になって、
ようやく周囲が目に入る。
青かった。
どこまでも。
見渡す限り、
青い世界が広がっている。
(海の底……?)
頭上を見上げる。
揺らめく水。
差し込む光。
まるで海の中だ。
けれど。
(苦しくない……)
息ができる。
身体も濡れていない。
不思議なくらい普通に立っていられる。
(どうなってるの……)
理解できない。
分からないことばかりだった。
ここがどこなのか。
どうしてこんな場所にいるのか。
ノアたちは無事なのか。
帰れるのか。
何一つ分からない。
(怖い……)
その感情を認めた途端、
胸の奥が重くなる。
一人。
知らない場所。
頼れる人もいない。
足元がぐらつくような心細さが込み上げた。
(どうしよう……)
思わず拳を握る。
昔の自分なら。
きっとその場に座り込んでいた。
誰かが助けてくれるのを待っていた。
誰かが決めてくれるのを待っていた。
でも――
(駄目)
ミラベルは小さく首を振る。
(ノアは飛び込んだ)
迷いなく。
セレスを助けるために。
(セレスだって、きっと諦めてない)
どこかで必死に状況を考えているはずだ。
二人とも前を向いている。
なのに。
(私だけ立ち止まるの?)
胸の奥で、
もう一人の自分が問いかける。
怖い。
不安だ。
泣きそうなくらい心細い。
それでも。
(……探さなきゃ)
その時だった。
胸元がじんわりと熱を帯びる。
「……?」
ミラベルはペンダントを握った。
淡い光が灯る。
まるで鼓動のように。
ゆっくりと。
規則正しく。
脈打っている。
(こっちに進めばいいの……?)
導かれている……そんな気がした。
根拠なんてない。
けれど。
今はそれしか頼れるものがない。
ミラベルはペンダントを握り締める。
(大丈夫)
(怖くてもいい)
(進まなきゃ)
小さく息を吸う。
そして。
一歩を踏み出した。




