第32話 進級試験
——学園・中央広場
冷たい風が、
石畳を吹き抜ける。
空は薄曇り。
重たい雲の下、
特別科の生徒たちが広場へ集められていた。
一年生。
そして二年生。
だが、
三年生の姿はない。
「三年はいないのか?」
周囲を見渡しながら、
ノアが低く呟く。
「卒業試験前だからね。進級試験とは別らしいよ」
セレスが小声で答えた。
ミラベルたちは、
広場の端に並んでいた。
一年生は三人だけ。
ノア。
セレス。
そしてミラベル。
張り詰めた空気の中、
その少なさは妙に目立っていた。
ミラベルは無意識に、
胸元のペンダントへ触れる。
じんわりと熱を帯びている。
なんだか胸の奥が落ち着かない。
その時だった。
広場の空気が変わる。
教官たちの後方へ、
黒い外套を纏った集団が現れた。
胸元に刻まれた銀の紋章。
王家直属監察局。
ざわり、と生徒たちがざわめく。
「監察局だ……」
「なんで進級試験に?」
小さな声があちこちから漏れる。
ミラベルも思わず息を呑んだ。
黒い外套の集団は無言だった。
ただ立っているだけなのに、
鋭い威圧感がある。
その中の一人が、
ふとこちらを見た気がした。
視線が交わる。
その瞬間——
ペンダントが熱を帯びた。
「っ……」
思わず胸元を押さえる。
だが次の瞬間には、
その人物は視線を外していた。
気のせいだったのだろうか。
「静まれ」
教官の低い声が響く。
ざわめきが止まった。
「これより、特別科進級試験を開始する」
空気が張り詰める。
「試験形式は実戦」
教官の視線が、
集まった生徒たちを見渡した。
「特別科に必要なのは戦闘能力だけではない」
「生存能力」
「状況判断」
「連携」
「そして——協調性だ」
ミラベルは小さく息を呑む。
ノアは静かに前を見据えた。
セレスも真剣な表情になる。
教官は続けた。
「試験内容は、旧海岸防衛区域に存在する封印核の回収」
ざわり、と空気が揺れた。
「旧海岸防衛区域……」
「昔、海魔獣が出たとか?その時の施設か?」
小さな声が上がる。
教官は頷いた。
「対象区域は、かつて海魔迎撃の拠点として使われていた場所だ」
海。
その言葉に、
ミラベルの胸が妙にざわつく。
「封印核は既に役目を終えている」
教官は淡々と続けた。
「今回の任務は、その回収および現地確認だ。点在しているはずだ」
生徒たちの緊張が、
わずかに緩む。
だが——
「ただし」
教官の声が低くなった。
再び空気が張り詰める。
「封印術式には不用意に触れるな」
「封印そのものは停止している」
「しかし、長期間放置された術式が何を残しているかは分からん」
静寂が落ちた。
「区域内では魔獣との交戦も想定される」
「危険と判断した場合は撤退を許可する」
そして。
「ただし——封印核を持ち帰れなかった場合、不合格だ」
重い沈黙。
しかし、
誰一人として目を逸らさない。
「三人一組で行動」
ミラベルは隣を見る。
ノア。
セレス。
二人とも既に覚悟を決めていた。
「監察局は視察のみ」
「試験への介入は行わない」
黒い外套の集団は、
依然として無言のまま立っている。
まるで何かを見定めるように。
その時。
ミラベルのペンダントが、
再び熱を帯びた。
じわり、と。
まるで、
これから起きる何かに反応するように。
次の瞬間。
広場中央へ巨大な魔法陣が展開された。
淡い光が石畳を走る。
転移陣。
風が渦を巻き、
魔力が震えた。
セレスが小さく息を吐く。
「いよいよだね」
「……ああ」
ノアが短く答える。
ミラベルは胸元のペンダントを握り締めた。
嫌な予感がする。
それでも——
逃げたくない。
セレスがふっと笑った。
「全員で戻ろう」
ミラベルは力強く頷く。
「うん」
ノアが一歩前へ出る。
「行くぞ」
眩い光が溢れた。
次の瞬間——
三人の姿は、
転移陣の中へ消えた。




