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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第28話:帰還と午後の微光

学園へ戻ると、

教官へ簡単な報告を済ませる。


「ご苦労、よくやった。今日は解散。」


それだけだった。


まるで、

山で起きた異変など最初から存在しなかったかのように。


各自解散となり、

ミラベルはノアとセレスと別れて寮へ戻る。


ちょうど部屋から出てきたリナと合流し、

そのまま食堂へ向かった。


——学園・食堂


今日は珍しく、

他の科の授業も長引いたようで、

学生寮の食堂にはまだ多くの生徒が残っていた。


食器の音。

笑い声。

夕食の匂い。


山の静寂とは、

まるで別世界だった。


「ここ、空いてるね」


ミラベルはリナと一緒に席を確保しながら、

小さく息を吐く。


胸の奥には、

まだ戦いの疲労が残っていた。


それでも、

こうした日常の空気が、

張り詰めていた心を少しずつ解きほぐしていく。


リナが椅子へ腰掛けながら、

ふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、先輩たちが話してたよ」


「うん?」


「山の調査、結局ほとんど異常なかったんだって」


ミラベルの手が、

一瞬だけ止まる。


「……え?」


「霧も途中で消えたらしくて、空振りだったって言ってた」


そんなはずない。


確かに、

あの瘴気も、

精霊も、

存在していた。


けれど。


任務内容の口外は禁止されている。


それに、

リナを怖がらせたくなかった。


だからミラベルは、

小さく笑ってみせる。


「そっか……」


「ミラベルたちは大丈夫だった?」


真っ直ぐな問いに、

ミラベルは静かに頷く。


「うん。ちょっと疲れたけど、大丈夫」


嘘ではない。


けれど、

全部を話したわけでもなかった。


トレイに手を伸ばした瞬間、

ふと横を見る。


——ノアがいた。


人混みをすり抜け、

迷いなくミラベルの隣へ腰を下ろす。


「……あれ?」


思わず小さく声が漏れる。


リナはくすっと笑った。


ノアは軽く目を合わせるだけで、

すぐに視線をトレイへ落とす。


「ノアも同じメニューにしたんだね」


「ああ」


短い返事。


横顔をちらりと見た瞬間、

ノアの視線が少しだけ止まった気がした。


——左手首に。


だが、

何も言わない。


リナが小声でからかう。


「……ミラベル、ノアと近くない?」


「っ……!」


慌てて視線を逸らす。


ノアは何事もなかったように姿勢を変え、

ほんの少し距離を空けた。


控えめなのに、

確かな存在感だけが残る。


——ただの食堂のひととき。


それなのに、

少しだけ特別な空気が流れていた。


——翌日・訓練場


空は澄んだ青だった。


昨日の霧が、

嘘だったみたいに。


「ちょっと、この魔法見てほしいんだけど……セレス、お願い」


ミラベルは自然に声をかける。


恐怖や緊張は、

まだ完全には消えていない。


それでも、

少しずつ好奇心が戻ってきていた。


セレスは笑みを浮かべる。


「いいよ。どこが気になる?」


二人は軽やかに動きながら、

魔法の流れを確認し合う。


少し離れた場所で、

ノアは静かにその様子を見ていた。


口は出さない。


だが、

視線だけはずっとこちらへ向いている。


「……俺には聞かないのか?」


小さな声。


少しだけ不満そうで、

でもどこか抑えた響きだった。


ミラベルは思わず笑う。


「あ、ごめんごめん。せっかくだから、ノアも見てほしい」


ノアは軽く息を吐き、

肩をすくめながら輪へ近づく。


無理に目立たず、

それでも自然と隣にいる。


そんな距離感だった。


三人は言葉少なに、

魔法を確認し合う。


穏やかな午後。


けれど——


訓練を終え、

日が傾き始めた頃。


ミラベルは庭の片隅で、

落ち葉に光る小さな魔力の残滓を見つけた。


「……何だろう?」


しゃがみ込み、

そっと手を伸ばす。


その瞬間。


——視線を感じた。


ぞくり、と背筋が粟立つ。


振り返る。


だが、

そこにいるのは揺れる木々だけだった。


風が吹く。


夕暮れの影が、

静かに長く伸びていく。


日常は戻ったはずなのに。


胸の奥の違和感だけが、

まだ消えずに残っていた。

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