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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第23話:いつもと違う距離

——訓練場・夜


打ち合いの余韻が残る中、対戦訓練は終了した。


熱気の残る空間に、徐々に静けさが戻っていく。


「今日はここまでだな」


ノアがそう告げると、セレスは軽く肩を回した。


「いやー、結構遅くなったね」


セレスは視線をミラベルへ向ける。


「ミラベルもお疲れ。無理はしないようにね」


「あ、うん……ありがとう」


穏やかなやり取りのあと、セレスは手を振った。


「じゃ、僕はこっちだから。また明日」


そう言って、訓練場を後にする。


その背中が見えなくなると——


空気が一気に静かになった。


(……静か)


残ったのは、ノアとミラベルの二人だけ。


「……帰るぞ」


ノアが短く言う。


「う、うん」


並んで歩き出す。


静かだ。


足音だけが、やけに響く。


「……遅くなっちゃったね」


沈黙に耐えきれず、思わず口を開いた。


「ああ」


短い返事。


それ以上、会話は続かない。


「お腹、空いたね」


間を埋めるように、すぐ次の話題を投げる。


「そうだな……」


「一緒に食うか」


思わず、足が止まりかけた。


「他のクラスの連中は、もう食い終わってるだろうしな」


理由はもっともだ。


でも——


「えっ……あ、うん」


少し驚きながら、頷く。


ほんの一瞬、ノアの視線がこちらに向いた気がした。


すぐに逸らされたけれど。


(……珍しい)


そんな違和感を抱えたまま、寮の前に着く。


「じゃあ、着替えたら食堂な」


それだけ言って、ノアは男子寮へ向かう。


「あ、うん……またあとで」


小さく手を振る。


ノアはそのまま歩き——


一瞬だけ、振り返りかけて。


結局、何も言わずに去っていった。


(……今の、何?)


胸の奥に、小さな引っかかりが残る。


「遅れたら怒られそう……急がなきゃ」


私は慌てて寮へ戻った。



食堂。


人のいない広い空間は、やけに静かで。


向かいに座るノアは、無言でスープを口に運んでいる。


(……気まずい)


けれど——


どこか、いつもと違う。


その仕草が、妙に落ち着かない。


……一人でいるときは、こんな風じゃなかった気がする。


沈黙に耐えきれず、口を開く。


「あのさ」


ノアの手が、わずかに止まる。


「ノアって、セドリック先輩とどういう関係なの?」


次の瞬間——


じろり、と視線が刺さった。


「っ、ごめん……無理にとは言わないけど」


思わず、言葉がしどろもどろになる。


しばらくの沈黙。


やがて、ノアは視線を外した。


「……あいつとは、古い付き合いだ」


(……答えてくれるんだ)


その一言とともに——


ふっと、遠い気配がよぎった。



数年前。


港町。


潮の匂いと、風の音。


小さな漁港で、ノアは父と二人で暮らしていた。


同じ年頃の子どもたちの中に——


セドリックもいた。


夕焼けに染まる防波堤。


木剣の打ち合う、乾いた音。


「……また負けた」


砂に膝をつくノア。


対するセドリックは、息一つ乱していない。


たった一つ上。


それだけなのに、埋まらない差。


「立て」


短い言葉。


「でも今のは——」


「“でも”はいらない」


ぴたり、と木剣が肩に触れる。


「戦いで言い訳した瞬間に、死ぬ」


言葉を失う。


悔しい。


だが、何も言い返せない。


「……どうすればいいんだよ」


絞り出した声に、


セドリックはわずかに視線を逸らした。


そして——


「剣は振るな」


「……は?」


意味が分からない。


セドリックは静かに構え、一歩踏み込む。


次の瞬間——


コツン。


ノアの額に、木剣が触れていた。


「今の……」


「置いただけだ」


「見えなかった……」


「力むから遅くなる。力を抜け」


ノアは唇を噛みしめる。


「……俺、強くなりたいんだ」


「……」


「誰にも負けないくらい」


ほんの一瞬、セドリックの目が細くなる。


「なら、覚えろ」


静かな声。


「死なない剣を」


潮風が強く吹き抜ける。


ノアはゆっくりと立ち上がった。


「……もう一回」


「何回でもやる」


短いやり取り。


それだけで、十分だった。


やがて日が沈み、帰り道。


「なあ」


ノアが口を開く。


「なんで教えてくれるんだ?」


少しの沈黙。


そして——


「暇だからだ」


「絶対ウソだろ」


返事はない。


代わりに、ぽつりと。


「お前、弱いだろ」


「うるせぇ!」


言い返そうとして——やめる。


「……放っとくと死ぬ」


その一言。


「それは……なんか気分が悪い」


不器用で、短い理由。


でも——それでよかった。



「——古い付き合い、だ」


ノアの声で、現実に引き戻される。


気づけば、スープは冷めかけていた。


一瞬だけ、ノアの視線がこちらに向く。


何かを測るような、そんな目。


「……それだけ?」


思わず聞き返す。


ノアはスプーンを置いた。


「それだけで十分だろ」


短い言葉。


けれど、その奥には確かな重みがある。


(ただの先輩後輩じゃない……)


そう感じた。


ノアは立ち上がる。


「先、戻る」


「あ、うん」


背を向けて歩き出す。


その動きは、無駄がなく、静かだった。


(なんか、今日……変だったな)


そんな違和感だけが、静かに残った。

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