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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第22話 報告

——王城・奥室


重たい沈黙が、部屋を支配していた。


窓は閉ざされ、

外の光はほとんど入らない。


燭台の炎だけが、

ゆらゆらと壁を照らしている。


その中心で、

王女は静かに椅子へ腰掛けていた。


指先が、肘掛けを規則的に叩く——苛立ち。


「……遅いわね」


誰へ向けるでもなく、

低く吐き捨てる。


「学園の監視ごときに、

どれだけ時間を掛けているのかしら」


静かな声。


だが、

空気が張り詰める。


王女はゆっくりと片目に触れ、

わずかに眉を寄せた。


(……嫌な気配が残っている)


最近になって強まり始めた、

説明のつかない“揺らぎ”。


片目の奥が、

微かに疼く。


——その時。


「……お呼びでしょうか、王女殿下」


いつの間にか、

部屋の奥に人影が立っていた。


セドリック・ヴァレンタイン。


気配すら感じさせず現れたその姿に、

王女はわずかに視線を向ける。


「やっと来たのね」


「申し訳ありません。

学園側の警戒が思った以上に強く——」


「言い訳は結構よ」


ぴしゃりと遮る。


一瞬で、

空気が冷えた。


「報告を」


短く、

鋭い命令。


セドリックは肩をすくめ、

いつもの軽い調子で笑う。


「怖いなぁ、ほんと」


だがその目は、

少しも笑っていなかった。


「特別科は順調ですよ。

予想以上に粒が揃ってる」


「特にノア。あれはもう完成に近いですね」


王女の指先が止まる。


「そう」


興味はある。


だが、

感情は見せない。


一瞬だけ、間が空く。


「……それだけ?」


王女の視線が鋭くなる。


セドリックは視線を逸らし、軽く息を吐いた。


「ええ、今のところは」


——嘘ではない。

だが、真実でもない。


けれど、

王女は沈黙したまま彼を見つめている。


片目が、

微かに空気の揺れを捉える。


「……他に報告は?」


低く落ちる声。


セドリックは、

ほんの少しだけ口角を上げた。


「しいて言うなら——面白い“兆し”が一つ」


「曖昧ね」


「確証がありませんから」


「なら不要よ」


即座に切り捨てられる。


セドリックはそれ以上、

踏み込まなかった。


「引き続き監視を続けなさい」


「かしこまりました」


深く一礼する。


——その瞬間。


「セドリック」


呼び止められる。


「……はい?」


「次は、遅れないことね」


振り返らないまま告げられるその言葉には、

明確な圧があった。


セドリックは一瞬だけ目を細める。


「善処しますよ」


軽く返し、

そのまま姿を消した。


——静寂。


再び一人になった王女は、

ゆっくりと目を閉じる。


片目の奥が、

微かに疼く。


「……まあ、いいわ」


静かな声。


「いずれ全部、

こちらへ集まる」


燭台の炎が揺れる。


壁に伸びた影は、

まるで何かを飲み込むようだった。



——王城・外廊下


姿を現したセドリックは、

壁にもたれかかった。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


「相変わらず怖ぇな、あの人」


軽口。


だがその目は、

どこか冷静だった。


脳裏に浮かぶのは、

ひとりの少女。


(……全部報告、ねぇ)


ポケットに手を突っ込む。


わずかに笑った。


(するわけないだろ)


その笑みは、

普段の軽薄さとは少し違う。


視線が、

遠く学園の方角へ向く。


「さて……」


小さく呟く。


「どうなるかね」


誰にも届かない声が、

静かな夜へ溶けていった。

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