第20話 学園に広がる瘴気
——訓練場。
乾いた音と共に、魔法が弾ける。
「そこ、遅い!」
セレスの声と同時に、炎が走った。
謹慎は明けた。
けれど、山への出動命令はまだ出ていない。
結局、こうして訓練を繰り返す日々だ。
ミラベルは咄嗟に光を展開し、防ぐ。
だが衝撃を殺しきれず、一歩後ろへ押し出された。
「くっ……!」
「悪くねえが、判断が遅い」
ノアの冷静な声が飛ぶ。
「迷った瞬間に終わるぞ」
息を整えながら、ミラベルは唇を噛む。
(分かってる……でも——)
そのとき。
——ゾワッ
空気が、変わった。
(……なに?)
背筋に冷たいものが走る。
周囲を見渡す。
だが、ノアもセレスも気づいていない。
(違う……この感じ……)
胸元のペンダントが、じわりと熱を帯びる。
そして——
(……にくい……)
はっきりと、聞こえた。
「っ……!」
思わず顔を上げる。
「どうした?」
ノアが眉をひそめる。
「……来る」
無意識に、口にしていた。
次の瞬間——
ドンッ!!
地面が揺れた。
「なっ——!?」
訓練場の端から、黒い霧が噴き出す。
瘴気。
空気が一気に淀む。
「全員、構えろ!!」
ノアの声が響く。
霧の中から——
影が飛び出した。
小型魔物。
だが、その数は一体ではない。
次々と、溢れ出てくる。
「数が多い……!」
セレスが炎を展開する。
「ちっ、面倒だな!」
ノアは即座に前へ出た。
光弾が放たれ、正確に魔物を撃ち抜く。
だが——
(まだ来る……!)
ミラベルには分かる。
霧の奥。
さらに“何か”が動いている。
(右……!)
「ノア!右!」
反射的に叫ぶ。
次の瞬間——
飛び出した魔物が、ノアのいた位置を切り裂いた。
「……!」
ノアが一瞬だけ目を見開く。
「見えてるのか……?」
その問いに答える余裕はない。
「まだ来る!三体!」
言葉と同時に、魔物が飛び出す。
「チッ、助かる!」
ノアが即座に対応。
光弾が、正確に三体を撃ち抜いた。
セレスも動く。
「まとめて焼く!」
炎が広がり、瘴気ごと魔物を飲み込む。
爆ぜる音。
熱と衝撃が訓練場を満たす。
——だが。
(終わってない)
ペンダントの熱が、さらに強くなる。
(奥にいる……もっと強いのが……!)
「下がって!」
ミラベルが叫ぶ。
その瞬間——
霧が、大きくうねった。
そして現れたのは、先ほどより一回り大きな影。
「上位種か……!」
ノアの声が低くなる。
魔物が咆哮し、突進してくる。
速い。
(間に合わない——)
そのとき。
ペンダントが、強く脈打った。
ドクン、と。
(……え?)
視界が、一瞬だけ歪む。
次の瞬間——
魔物の動きが、遅く見えた。
(……見える)
軌道。
タイミング。
すべてが、分かる。
「そこっ!!」
ミラベルは光を放った。
一直線。
だがそれは、ただの一撃ではない。
“動く先”へ撃ち込む。
光が、魔物の急所を正確に貫いた。
「——ッ!?」
魔物の動きが止まる。
その隙を——
「いいぞ!」
ノアの光が追撃する。
セレスの炎が重なる。
爆発。
魔物はそのまま崩れ落ちた。
——静寂。
瘴気は、ゆっくりと消えていく。
「……終わった、か」
セレスが息を吐く。
ノアは、ミラベルを見ていた。
まっすぐに。
「……お前」
一歩、近づく。
「やっぱり——見えてるな」
言葉が、重く落ちる。
ミラベルは息を呑んだ。
(もう……隠せない)
ペンダントは、まだ熱を残している。
その奥で——
(……かえせ……)
確かに、声が響いていた。
⸻
——その頃。
王城。
「……感じたわ」
王女が、ゆっくりと目を細める。
「瘴気の揺れ……」
口元が、わずかに歪む。
「あの山だけじゃないのね」
指先で、そっと片目に触れる。
「……面白いじゃない」
その声には、愉悦すら滲んでいた。
「やはり、まだ残っている」
静かに、呟く。
「なら——」
その瞳が、冷たく光る。
「今度こそ、完全に奪い取る」
⸻
——異変は、ついに学園へ広がった。
そして。
隠されていた“力”もまた、目を覚まし始めていた。




