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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第19話 束の間の休息と、届かない背中

——学園・女子寮の朝。


やわらかな光がカーテンの隙間から差し込み、部屋を淡く照らしていた。


ミラベルはゆっくりと目を覚まし、ベッドから身を起こす。


静かな朝。


張り詰めた気配のない時間に、思わず小さく息を吐いた。


窓辺へ歩み寄り、外を眺める。


薄く晴れた空。

風に揺れる木々。


そして、胸元のペンダントをそっと握った。


(……久しぶりに、静かな朝かも)


謹慎は明けた。

けれど今日は、学園の休み。


だからだろうか。


誰かに見張られているような感覚も、

訓練へ向かう緊張もない。


自然と、肩の力が抜けていく。


(……あの声は、それから聞こえてない)


山での出来事が脳裏をよぎる。


霧。

闇。

『かえせ』という声。


胸の奥が少しだけ重くなる。


けれど今は、

ただ静かな時間だけがそこにあった。


「おはよう、まだ眠そうね」


背後から明るい声が飛ぶ。


振り返ると、同室のリナがベッドの上で大きく伸びをしていた。


「おはよう、リナ……」


朝から元気な様子に、思わず少し笑ってしまう。


入学してすぐに打ち解けた、大切な友人。


クラスは違っても、

こうして同じ部屋で過ごす時間がある。


それだけで、不思議と安心できた。


(……前の私じゃ、考えられなかったな)




——食堂。


朝食をとりながら、二人は何気ない会話を交わしていた。


授業のこと。訓練のこと。

だがクラスごとの内容は口外禁止。


自然と、どこか探り合うような会話になる。


「最近どう? 魔法、上達してきた?」


リナが興味津々に身を乗り出す。


ミラベルは少し視線を逸らし、照れくさそうに笑った。


「まだまだだよ。でも……ちょっとは制御できるようになった、かな」


「そっかぁ。ちゃんと頑張ってるんだね」


その一言が、じんわりと胸に広がる。


「リナは?」


何気なく聞き返した瞬間——


「聞いてくれる!?」


ぱっと表情が輝いた。


(あ、これ長くなるやつだ……)


案の定、話は止まらない。

身振り手振りを交えながら、どんどん広がっていく。


けれどその賑やかさが、どこか心地よかった。


張り詰めていた気持ちが、少しずつほどけていく。



——食後。


リナと別れた後、ミラベルは一人で校内を歩いていた。


休日の学園は静かで、どこか別の場所のように感じる。


足音だけが、廊下に小さく響く。


そのとき——


ドンッ!!


空気を震わせる衝撃音。


続けて、弾けるような音が響いた。


(……訓練場?)


気づけば、そちらへ足が向いていた。



——訓練場。


扉をそっと開けた瞬間、熱と光が押し寄せる。


中央には、ノアとセレス。


向かい合う二人の間に、張り詰めた空気が満ちていた。


次の瞬間——


光が走る。


ノアの指先から放たれた光弾が、一直線に飛ぶ。


しかし、それは途中で軌道を変えた。


正確に——


セレスの炎へとぶつかる。


火花が弾けた。


「ははっ、いいね!」


セレスが笑いながら炎を振るう。


炎の鞭がしなり、さらに火球が放たれる。


だが、その軌道は不規則に歪んでいた。


風。


炎に風を重ね、動きを変えている。


「おい、やりすぎんなよ」


ノアの声は冷静だ。


次の瞬間、光弾が炎を“弾いた”。


ただ防ぐのではない。

利用して、跳ね返している。


(すごい……)


思わず息を呑む。


(ノアは……無駄がない。全部、当ててくる)


(セレスは……読ませない。動きが崩れてるのに、成立してる……)


光と炎が交錯する。


ぶつかり、弾け、軌道を変え、再び襲う。


まるで——呼吸を合わせた舞のようだった。


「……見てるだけか?」


不意に、ノアの声が飛ぶ。


気づけば、こちらを一瞬だけ見ていた。


「……邪魔になるかと思って」


ミラベルは苦笑する。


「なら、しっかり見とけ」


短い言葉。


けれど、それは拒絶ではなかった。


(……うん)


一歩、踏み出す。


(まだ入れない。でも——)


(見て、覚える)


タイミング。間合い。視線。動き出し。


すべてを、目に焼き付ける。



数分後——決着は一瞬だった。


ノアの光弾が、セレスの火球を正確に弾き返す。


軌道を失った火球は、そのまま逸れた。


「……参ったな」


セレスが肩をすくめる。


「お前もなかなかだ」


ノアが短く返した。


二人の間に、わずかな笑みが浮かぶ。


その光景を見て、ミラベルは胸元のペンダントを握った。


(……私も)


視線は、まだ熱の残る空間へ。


(あの中で戦いたい)


(もっと強くなりたい)


(守れるようになりたい……仲間も、自分も)


そのとき——


ペンダントが、はっきりと熱を帯びた。


(……え?)


心臓が跳ねる。


そして——


(……かえせ……)


微かに、確かに。


あの声が、響いた。


息が止まる。


(今の……)


(気のせいじゃない)


ミラベルは、ぎゅっとペンダントを握りしめた。


その熱は、まだ消えていなかった。



——静かな休息の裏で。


再び、何かが動き出していた。

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