第17話 一人で行くな
「どこ行く気だ」
低い声が落ちた。
息が止まる。
振り向く。
廊下の暗がり。
そこに、
ノアが立っていた。
腕を組み、
鋭い目でこちらを見ている。
「……起きてたの」
「昼間のお前が妙に静かだからな」
ノアの視線が、
ミラベルの羽織へ落ちる。
「——あの山か」
見透かされていた。
ミラベルは視線を逸らす。
「……少し、確認したいだけ」
「山を?」
沈黙が落ちる。
ノアは小さく息を吐いた。
「気になるのは分かる」
静かな声。
「でも今のお前、引っ張られすぎだ」
胸が痛む。
否定したかった。
でも——
あの声を思い出すたび、
心が揺れる。
「……苦しんでた」
ぽつりと呟く。
「怪我してたかもしれない」
ノアの眉がわずかに寄る。
「だから?」
「……私しか、助けられないかもしれない」
その瞬間。
空気が変わった。
ノアが一歩近づく。
「一人で抱え込むな」
低い声。
けれど、
明確に感情が混じっていた。
ミラベルが目を見開く。
ノアは続ける。
「何度も言わせんな」
さらに一歩。
逃がさないみたいに、
真っ直ぐこちらを見る。
「もっと周りを頼れ」
胸が揺れる。
「俺たちだっているだろ」
言葉が出ない。
ノアは苛立ったように髪をかき上げた。
「お前は、一人で何とかしようとしすぎだ」
その言葉が、
胸の奥へ突き刺さる。
前世では、
誰も助けてくれなかった。
頼っても、
返ってくるのは拒絶だけだった。
だから。
“自分でやるしかない”が、
当たり前だった。
でも。
「……でも」
声が震える。
「放っておけないの」
ノアはしばらく黙っていた。
やがて、
深く息を吐く。
「……それでも行くんだろ」
ミラベルは小さく頷く。
するとノアは、
呆れたように目を閉じた。
「ほんと面倒なやつだな」
そう言って、
壁から身体を起こす。
「——なら、俺も行く」
ミラベルが目を見開く。
「え……」
「一人で行かせる方が危険だ」
当然みたいに言う。
胸が、少し熱くなる。
「……ありがとう」
小さく零すと、
ノアは顔を逸らした。
「勘違いするな」
ぶっきらぼうな声。
「お前の暴走止める役が必要なだけだ」
それでも。
一人じゃない。
その事実が、
胸の奥を静かに温めていた。
⸻
夜の山道。
霧は深く、
空気は重い。
二人は無言で奥へ進んでいく。
その背を——
少し離れた校舎の影から、
静かに見つめる視線があった。
「……へぇ」
セドリックが小さく笑う。
「今度は夜遊びか」
その目は、
どこか楽しげだった。




