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地獄の毎日から目覚めた少女は、元王家の生き残りでした 〜新しい運命の扉を開く〜  作者: 白椿(しろつばき)


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第16話:すれ違い

朝。


窓の外は、薄曇りだった。


寮の部屋には静かな空気が流れている。


けれど——

ミラベルの胸の内だけが、落ち着かなかった。


(……助けを求めてた)


昨日の声が離れない。


『……かえせ……』


苦しそうな声。


最後に聞こえた、

かすかな“たすけて”。


ペンダントを握る。


まだ微かに熱が残っている気がした。



教室。


特別科の空気は、いつも通り静かだった。


ノアは窓際。

セレスは資料を読んでいる。


だが——


空気が少し違う。


ミラベルが席につくと、

セレスが先に口を開いた。


「体調は?」


「……平気」


短く返す。


そのまま沈黙が落ちた。


以前なら、

もう少し自然に言葉があった気がする。


昨日の件。


あの空気が、

まだ残っていた。



「昨日の判断だけど」


不意にセレスが言う。


ミラベルの肩がわずかに強張る。


「君が間違っていた、とまでは言わない」


淡々とした声。


「ただ、危険だったのは事実だ」


「……分かってる」


小さく返す。


すると今度は、

ノアが低く口を開いた。


「分かってるなら止まれ」


視線は向けない。


でも言葉だけは鋭かった。


「助けたいのは勝手だ。だが、お前一人で抱え込むな」


胸が痛む。


(……抱え込んでなんか)


否定しかけて、

言葉が止まる。


昨日。


自分は確かに、

周囲が見えなくなっていた。


でも——


(だって、あのままじゃ)


「……見捨てたくなかった」


ぽつりと零れる。


教室が静かになる。


ノアは小さく息を吐いた。


「だから死にかけた」


その一言が重い。


反論できない。



昼休み。


ミラベルは一人、中庭に出ていた。


風が冷たい。


ぼんやりと山の方角を見る。


(……また行かなきゃ)


あの声は、

まだ消えていない。


むしろ近くなっている気がする。


“次は届くかもしれない”


そんな感覚だけが、

胸に残っていた。


その時。


「難しい顔してるね」


軽い声。


振り向くと、

セドリックがいた。


壁に寄りかかり、

面白そうにこちらを見ている。


ミラベルの表情が硬くなる。


「……何ですか」


「怖いなぁ」


セドリックは肩をすくめた。


「昨日のことで怒ってる?」


答えない。


すると彼は少しだけ目を細める。


「でも、間違ってはなかったと思うよ」


「……っ」


思わず顔を上げる。


「君、あのままだと飲まれてた」


軽い口調のまま。


でも、

その目だけは妙に冷静だった。


「優しいのは悪くない。でもね」


セドリックは霧の山を見る。


「“助けたい”だけで踏み込むと、死ぬよ」


その言葉に、

昨日の光景が蘇る。


崩れかけた空間。

乱れる力。


自分の震える手。



「……でも」


ミラベルは小さく呟く。


「まだ、話せたかもしれない」


セドリックは少し黙った。


そして。


「かもね」


否定しなかった。


そのことに、

逆に胸がざわつく。


「じゃあ、なんで——」


「切るべきだと思ったから」


即答だった。


「迷った結果、全滅しました——は笑えないでしょ?」


軽い声。


でも、

そこには確かな現実があった。


ミラベルは唇を噛む。


分かっている。


それでも——


納得できない。



夜。


寮の部屋。


ミラベルは眠れずにいた。


窓の外を見る。


遠く。


霧の山が見える。


ペンダントが、淡く熱を持った。


どくり。


鼓動が強く鳴る。


『……』


声は聞こえない。


でも。


“呼ばれている”


そんな感覚だけがあった。



気づけば、

ミラベルは立ち上がっていた。


羽織を掴む。


(……少しだけ)


確認したい。


あの声の正体を。


今なら、

もっと近づける気がする。


誰にも頼らず。


誰にも止められず。


静かに扉へ向かう。


その時。


「どこ行く気だ」


低い声が落ちた。


息が止まる。


振り向く。


廊下の暗がり。


そこに、

ノアが立っていた。

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