↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
135/141

第133話 乱れた心と進路

道なき道を、五人は一列になって進んでいた。


木々の間を縫うように続く細い獣道は、足場も悪く、横に並んで歩くことさえ難しい。


先頭を行くのはレオニス。

その後ろにリシェル、ミラベル、ノアと続き、最後尾をルークが歩いていた。


レオニスは足を止めることなく、ずんずんと先へ進んでいく。


リシェルは地面の状態を確かめながら、一歩ずつ足を運んでいた。


露出した木の根。

不安定な石。

踏み込めば崩れそうな土。


注意しなければ、足を取られかねない。


それでも、彼女は前を行くレオニスに遅れまいと、できる限り足を速めて歩く。


ふと、ミラベルの視線がリシェルの足元に留まった。


履いている靴が、この道を歩くには適していない。


足場の悪い場所を進むには、滑りやすく、足首も安定しにくそうだった。


――あれじゃ、歩きにくいよね。


ミラベルは眉を寄せた。


けれど、先頭のレオニスは振り返る気配もなく、前へ前へと進んでいく。


ミラベルはもう一度、リシェルの足元を見た。


どうすれば、無理をさせずに伝えられるだろう。


そんなことを考えながら、彼女は歩調を合わせようとした。


先頭を歩くレオニスは、後ろを気にかける様子もなく進む。


ミラベルは、少し前を行くリシェルの足元に目を向けた。


「靴、大丈夫?」


聞こえるくらいの小声で尋ねてみる。


しかし、返事はなかった。


聞こえなかったのだろうか。


ミラベルは小さく首を傾げたものの、それ以上は声をかけず、前へと視線を戻した。


周囲には、木々が途切れる気配もない。


かなりの距離を進んだように思うのに、景色はほとんど変わらなかった。


出発してから、すでに二時間半ほどが経っている。


このまま進んで、本当に目的地へたどり着けるのだろうか。


ミラベルは周囲の木々を見渡した。


生い茂る木々は、どれも互いに近い距離で枝を伸ばしている。


標高や湿度、山の地形を考えれば、そろそろ違う種類の木々が現れてもおかしくないはずだった。


「ねえ、レオニス」


ミラベルは前を歩く彼に声をかけた。


「本当にこっちで合ってるの? そろそろ周りを確認しながら進んだほうが――」


ミラベルは前を行くレオニスに目を向けた。


「ねえ、レオニス。そろそろ休憩を挟まない?」


足場の悪い道が続いている。

少し休んで、現在地や進路を確認してもいい頃ではないだろうか。


しかし、レオニスは振り返ることもなく、ずんずんと先へ進んでいく。


「ねえってば!」


その声に反応したのか、レオニスが突然足を止めた。


直後、リシェルが彼の背中にぶつかった。


「ご、ごめんなさい!」


慌てて身を引くリシェル。


レオニスは振り返ると、険しい顔で彼女の方を睨んだ。


「お前! うるさいぞ!」


「ご、ごめんなさい……」


リシェルは俯き、消え入りそうな声で謝った。


「リシェル、あなたは悪くない」


ミラベルはリシェルの肩に手を置いて、前に出た。


「レオニスは、私に怒っているのよ」


「偉そうに」


レオニスは怪訝な顔でミラベルを睨む。


「じゃあ聞くけど、ちゃんと進んでる?」


レオニスの眉間に、深い皺が寄る。


「確認しながら進む方が賢明だと思うけど」


出発してから、すでに二時間半。


そろそろ道が開けてもいいはずだった。


このあたりに生えているのは、互いに間隔を詰めて成長する種類の木ばかりだった。


おかしい。


標高や湿度、それにこの山の地形を考えれば、ところどころに、間隔を空けて成長する木々が見え始めてもいいはずだ。


けれど、進めば進むほど、周囲の景色は似通っていく。


本当に、正しい道を進んでいるのだろうか。


「このあたりの木は、密接して生える種類ばかりなの。標高と、この湿度、それに山の傾向から考えると――」


「それは憶測だ!」


レオニスが、ミラベルの言葉を遮った。


「目の前のことだけ見ろ。現実はまだ開けていない。黙って歩け!」


レオニスはそれだけ言うと、再び歩き始めた。


ミラベルが言葉を続ける間もなかった。


「……もう」


小さく息を吐き、ミラベルも後を追う。


その後ろでは、リシェルが焦ったように足を速めていた。


レオニスに遅れるわけにはいかない。


そう思うあまり、足元への注意がおろそかになっていた。


ぬかるんだ地面に、靴が深く沈む。


「きゃっ……!」


足を取られたリシェルの体が、大きく傾いた。


そのまま斜面へと転がり落ちそうになる。


「リシェル!」


ミラベルはとっさに手を伸ばし、彼女の腕をつかんだ。


勢いに引っ張られながらも、なんとか踏ん張る。


「大丈夫!?」


「……っ、うん……」


リシェルは青ざめた顔で答えた。


ミラベルに支えられながら、どうにか道へと戻る。


しかし、膝や腕には擦り傷ができ、足首にも痛みが走っていた。


体重をかけようとすると、鋭い痛みが広がる。


「歩けそうか?」


ノアが尋ねた。


リシェルは一度、足を動かそうとした。


「……っ!」


痛みに顔を歪め、すぐに足を引く。


「ごめん、なさい……。少し、難しいみたい」


その言葉を聞いたレオニスは、眉をひそめた。


「なら、ここに残れ」


「え……?」


「負傷した者を連れて進めば、隊列が乱れる。これ以上、訓練の進行を妨げるわけにはいかない」


「えっ、でも……」


「自分の不注意で怪我をしたんだ。責任は自分で取れ」


リシェルは唇を噛んだ。


反論することも、引き止めることもできない。


「それは違うだろ」


ノアが口を開いた。


「怪我をした仲間を置いていくなんて、さすがにおかしい」


「訓練は遊びではない。全員が足並みを揃えられなければ、全体の進行に支障が出る」


「だからって、見捨てる理由にはならないだろ」


二人の視線がぶつかる。


その間に、ミラベルは静かにリシェルのそばへしゃがみ込んだ。


「……少し、じっとしていてね」


リシェルが返事をするより先に、ミラベルは彼女の足首に手を添えた。


淡い光が、傷ついた足を包み込む。


擦り傷が消え、腫れと痛みがゆっくりと引いていった。


やがて光が収まると、リシェルの足は元の状態に戻っていた。


「これで大丈夫だと思う」


ミラベルは微笑んだ。


「無理はしないでね」


しかし、リシェルは何も答えなかった。


ミラベルの顔を見ることもなく、そっと立ち上がる。


足首を確かめるように一度だけ動かすと、何事もなかったかのようにレオニスの後ろへ戻っていった。


その様子を見て、レオニスが冷ややかに口を開いた。


「仲間に助けられなければ歩くこともできなかった。情けないと思わないのか」


リシェルの肩が、ぴくりと震えた。


「……ごめん、なさい」


俯いたまま、かすれた声で答える。


「謝罪ばかりだな。言葉ではなく、行動で示せ」


「……は、い」


リシェルは、それ以上何も言わなかった。


ただ、ミラベルに治療してもらった足元を見つめる。


怪我をしたのは自分の不注意だ。


判断が遅れ、隊列を乱し、仲間の足を止めた。


そして最後には、ミラベルに助けられた。


情けない。


そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


ミラベルは、ただ助けてくれただけだ。


責めることもなく、見返りを求めることもなく、当たり前のように手を差し伸べてくれた。


それなのに、今のリシェルには、その優しささえつらかった。


顔を上げれば、きっとミラベルと目が合う。


心配そうに見つめられたら、また自分が惨めになる。


だから、振り返りたくなかった。


レオニスは再び先頭を歩き始める。


その後ろに、リシェルが続いた。


ミラベルは、そんな彼女の背中を見つめていた。


「……リシェル」


声をかけようとした。


けれど、リシェルはわずかに肩を強張らせると、振り返ることなく歩みを速めた。


まるで、これ以上近づかないでほしいと訴えるように。


ミラベルは伸ばしかけた手を、そっと下ろした。


どうして、そんな顔をするのだろう。


「まだ、痛むのかな?」


答えは分からない。


ただ、今は追いかけて声をかけるべきではない気がした。


ノアがミラベルの隣に並ぶ。


「……気にするな。お前が悪いわけじゃない」


「うん……」


ミラベルは小さく頷いた。


それでも、リシェルの背中から目を離すことはできなかった。


先頭を進むレオニスは、歩調を緩めない。


その後ろを、リシェルが必死についていく。


そして、少し距離を置いて、ミラベルとノア、最後尾のルークが続いた。


道は相変わらず狭く、木々はどこまでも密集している。


先へ進めば進むほど、周囲の様子を確かめる余裕は失われていく。


それでも、レオニスは歩みを止めなかった。


このまま進み続けることが、本当に正しいのか。


ミラベルの胸には、小さな疑問が残っていた。


そして、その疑問を口にすることさえ、今は簡単ではなかった。


乱れたのは、隊列だけではない。


五人の心もまた、少しずつすれ違い始めていた。


ずっと黙っていたルークが口を開いた。


「やっぱり、この道おかしい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。