第131話 三人部屋
訓練場を後にし、寮へと戻る四人。
ノア、ガルド、ミラベル、エルフィナの後ろを、セレスが当たり前のようについてきていた。
最初に気づいたのは、ガルドだった。
「……おい、セレス。なんでお前までこっちに来てんだ?」
「ん? 寮に戻るところだけど?」
「いや、それは見りゃ分かる。お前、家に帰るんじゃなかったのか?」
ガルドが怪訝そうに尋ねると、セレスは何でもないことのように微笑んだ。
「今日から寮で暮らすことにしたんだ」
「……は?」
ノアとガルドの声が、見事に重なった。
「今日からって……急だな。部屋はどうするんだ?」
ノアが尋ねると、セレスは涼しい顔で答えた。
「空いている部屋がなかったから、君たちの部屋に入れてもらうことになったよ」
「はあっ!?」
今度はガルドが叫んだ。
「ちょっと待て! 俺たちの部屋は二人部屋だぞ!? そんなところに三人も入れるわけねえだろ!」
「そうかな? 僕の実家にある使用人部屋よりは、ずっと広いと思うけど」
「比べる場所がおかしいだろうが!」
ガルドの抗議にも、セレスはどこ吹く風だった。
隣でノアが額を押さえる。
「……せめて、先に相談してくれ」
「相談したら、断られそうだったからね」
「分かってるなら、なおさら相談しろ!」
ガルドの声が廊下に響いた。
そのやり取りを聞いていたミラベルが、ぱっと顔を輝かせる。
「えっ、セレスも寮に入るの!?ノアたちと同じ部屋なんて、楽しそう!」
「でしょ?」
セレスは嬉しそうに笑った。
「寝る前にみんなで話したり、朝起きたら誰かが先に起きていたり……そういう生活を一度してみたかったんだ」
「いいね!そういうの、楽しそうだと思う!」
ミラベルが素直に頷く。
「おい、ミラベル! お前は他人事だからって……!」
「二人とも、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。荷物はもう運んでもらう手配をしてあるから」
「そこまで準備してんのかよ!」
ガルドが頭を抱えた。
エルフィナは少し離れたところで、そんな三人を眺めていた。
「……ノアとガルドには、同情するわ」
「そう思うなら何とかしてくれよ」
ガルドが情けない声で嘆く。
「セレスの顔をみて、私にはどうしよもできない」
「お前なぁ……!」
ガルドの嘆きをよそに、セレスは笑顔だった。
「じゃあ、これからよろしくね、二人とも」
その笑顔は、いつもと変わらず穏やかだった。
前を向き直し先頭を歩くセレス。
その横顔は、どことなく悲しそうだった。
ミラベルは、セレスの一瞬の顔を見逃さなかった。
「……セレス、大丈夫?」
「えっ?ああ、少し疲れたかな」
セレスは小さく笑い、何事もなかったかのように再び歩き出した。
「確かに、今日は疲れたね」
ミラベルもそれ以上は何も聞かず、彼の隣を歩いた。
「私、お腹空いたー」
後ろから追いついてきたエルフィナが、ぽつりと呟く。
「いや、待て待て。腹は減ったが、話は終わってないぞ!」
ガルドはまだ納得していない様子だった。
ノアは深いため息をつくと、騒がしい仲間たちの後を追った。
――こうして、ノアとガルドの平穏な寮生活は、本人たちの知らないところで終わりを告げた。




