第122話 無力な魔力
寮の門の前まで戻ってくると、ノアが待っていた。
壁にもたれながら、ミラベルの姿を見つける。
「……ミラベル」
ノアが顔を上げた。
「どうだった?」
ミラベルは答えなかった。
俯いたまま、ぎゅっと拳を握る。
「……何も」
「え?」
「何も……できなかった」
その瞬間。
堪えていたものが、切れた。
ぽろり。
一粒の涙が、頬を伝う。
「……っ」
ミラベルは慌てて顔を背けた。
「ごめん……」
「ミラベル?」
「私……何もできなかった」
声が震える。
「リナを助けたかったのに……」
次から次へと、涙がこぼれた。
「……何も、変えられなかった」
ノアは何も言わなかった。
ただ、ミラベルの隣に立つ。
少しだけ間を置いて。
「……それでも」
静かな声だった。
「行ったんだろ?」
「……」
「リナのために」
ミラベルは答えられない。
涙を拭いながら、小さく頷く。
「……うん」
「だったら、それでいい」
「……でも」
「結果は、ミラベル一人じゃ決められない」
ノアは前を向いたまま言った。
「でも、行くかどうかは自分で決められる」
ミラベルは黙っていた。
やがて、また一粒だけ涙が落ちる。
けれど、今度は顔を背けなかった。
ノアも、それ以上は何も言わなかった。
ただ、ミラベルが泣き止むまで隣にいた。
◇
しばらくして。
涙も枯れ、ようやく落ち着いたころ。
ミラベルはノアと別れ、自分の部屋へ戻った。
「……ただいま」
返事はない。
ミラベルは小さく首を傾げた。
部屋の中を見回す。
いつもなら、そこにいるはずの姿がない。
「……リナ?」
返事はなかった。
ベッドも。
机も。
窓際も。
どこにもいない。
ミラベルの胸に、嫌な予感が広がっていく。
「……リナ?」
もう一度、呼ぶ。
やはり、返事はない。
ミラベルはゆっくりと部屋の中へ入った。
その時。
机の上に、何かが置かれていることに気づいた。
「……?」
一枚の紙だった。
ミラベルは、震える手でそれを取った。
そこには――
リナの字で、短い言葉だけが残されていた。
「これって……」
リナのいなくなった部屋に、ミラベルの呟きだけ残った。




