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第120話 誰にも止められない

「……そんな」


リナの話を聞き終わるとミラベルは呟いた。


「なんで?」


リナは答えられない。


ただ、涙を拭う。


「私……魔力が少ないから」


その言葉に。


ミラベルは黙った。


「それだけで?」


「……うん」


「何もしてないのに?」


「……うん」


「どうして……」


ミラベルは俯いた。


拳が、ゆっくりと握られていく。


「……おかしいよ」


「ミラベル?」


「そんなの……おかしい」


顔を上げる。


そこにあったのは、いつもの穏やかな笑顔ではなかった。


「リナは、ここで勉強してきたじゃない」


「……」


「ここにいたいって思ってるじゃない」


「……うん」


「だったら……」


ミラベルは立ち上がった。


「私、話してくる」


「え?」


「王家の人たちに」


「待って、ミラベル!」


リナが腕を掴む。


「無理だよ……」


「どうして?」


「もう決まったことだから」


「だから何?」


ミラベルは振り返った。


「決まったことなら、何をしても変わらないの?」


リナは言葉を失った。


「……」


「私、ちょっと話してくるだけだから」


「でも……」


「大丈夫」


そう言って、ミラベルは笑おうとした。


けれど。


その笑顔は、少しもいつも通りではなかった。


「リナは、ここにいて」


「ミラベル……」


「すぐ戻るから」


ミラベルは部屋を飛び出した。


「ミラベル!」


リナの声を背に。


ミラベルは廊下を走った。


王家監察局。


そこへ行けばいい。


話をすればいい。


リナがここにいられるように。


ただ、それだけだった。


「……待ってて、リナ」


廊下を曲がったところで。


「おい」


聞き慣れた声がした。


ミラベルが足を止める。


「……ノア?」


廊下の先に、ノアが立っていた。


「どこへ行くつもりだ?」


「今、急いでるから」


ミラベルはその横を通り過ぎようとする。


「ごめん」


「おい」


ノアが腕を掴んだ。


「お前の気持ちは分かる」


「だったら、離して」


「無茶するな」


「離して!」


ミラベルが振り払おうとする。


「王家監督官に乗り込んで、どうするつもりだ?」


「話す」


「聞く耳なんか持たないぞ」


「それでも行く」


「だからって、お前に何ができる?」


その言葉に。


ミラベルの動きが止まった。


「……何もできないかもしれない」


「だったら――」


「でも」


ミラベルが顔を上げる。


「黙って見てろって言うの?」


声が震えていた。


「困ってる友達を見捨てろって?」


ノアが息を呑む。


ミラベルの目には、涙が溜まっていた。


「私には……」


一度、言葉が詰まる。


「見捨てる方が怖い」


ノアは何も言えなかった。


「リナが何もしてないのに、ここからいなくなるのを……」


ミラベルは涙を拭う。


「私は、何もしないで見ていられない」


「……ミラベル」


「だから、行く」


その時。


「夜中に、痴話喧嘩かい?」


場違いなくらい軽い声が響いた。


二人が同時に振り返る。


「……お前かよ」


「セドリック先輩!」


廊下の壁にもたれながら、セドリックが手を振っていた。


「やー」


いつもの調子だった。


「大変なことになっちゃったね」


ノアが睨む。


「お前、何か知ってるだろ」


「何かって?」


「第二科のことだ」


「ああ」


セドリックはあっさり頷いた。


「まあ、噂くらいはね」


ミラベルが一歩近づく。


「学園追放なんて……何もしてない子が、どうしてですか?」


「うーん」


セドリックは少し考える。


「僕に言われてもなぁ」


「でも……!」


「まあ」


セドリックはミラベルを見る。


「何もしてない子は、結局、何もできない子なのかもね」


「……それって、どういう意味?」


ミラベルが眉を寄せる。


セドリックは笑った。


「さあ?」


「おい」


ノアがセドリックの胸ぐらを掴む。


「お前、はっきりしろよ」


「おお、怖い怖い」


口ではそう言いながら、セドリックはまるで怖がっていない。


「何を知ってる?」


「うーん……」


セドリックは少しだけ考える素振りをした。


「役立つことを証明すれば」


ミラベルが顔を上げる。


「……役立つ?」


「うん」


「それなら……残れるの?」


「かもね」


「誰にとって役立つんですか?」


セドリックは答えなかった。


ただ、口元だけを少し上げる。


「さあ?」


「……意味わからない」


「僕にもさっぱり」


「先輩!」


ミラベルが声を荒げる。


セドリックは肩をすくめた。


「まあ、話してみれば?」


「……」


「聞いてもらえるかは知らないけど」


「だったら――」


ミラベルはノアの手を振りほどいた。


「行ってくる!」


「おい、ミラベル!」


ミラベルは、そのまま走り去っていった。


ノアも追いかけようとする。


だが、一瞬だけセドリックを見る。


「……お前」


「ん?」


「何を企んでる?」


セドリックは笑った。


「別に?」


「……」


「ただ、面白そうだなって思っただけ」


ノアは眉をひそめる。


その横を、セドリックは何食わぬ顔で通り過ぎた。


「じゃ、おやすみ」


「おい!」


返事はない。


夜の廊下に、二人の足音だけが遠ざかっていった。

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