第118話 向かう方とは?
翌朝。
第二科の教室は、いつもより静かだった。
昨日の魔力測定。
誰も口には出さない。
けれど、皆が気にしている。
自分の結果。
そして――これから何が起こるのか。
「リナ」
隣の席から、シルヴィアが小さな声で呼んだ。
「なに?」
「昨日の測定、どうだった?」
「どうって……」
リナは少し考える。
「いつも通りだったよ」
「魔力量?」
「うん。少ないって」
「そっか……」
シルヴィアはそれ以上、何も言わなかった。
リナも聞かなかった。
シルヴィアの結果がどうだったのか。
聞くのが、少し怖かった。
その時。
教室の扉が開いた。
担任が入ってくる。
いつもの授業なら、そのまま教壇へ向かうはずだった。
けれど今日は違った。
担任の後ろには、昨日の監察局員が二人。
そして、見慣れない書類を抱えた教官が一人。
教室の空気が一瞬で変わった。
「……皆さんに、昨日の測定について伝えることがあります」
教官がそう言った。
生徒たちが顔を上げる。
「今回の測定は、単純な魔力量の確認ではありませんでした」
監察局員が前へ出る。
「魔力量、魔力制御、属性適性、術式理解度、魔法行使能力」
淡々と項目を読み上げていく。
「これらを総合的に評価しました」
「それで……?」
後ろの席から声が上がる。
監察局員は手元の書類を見る。
「皆さんには、それぞれ適性区分が設定されます」
ざわめき。
「適性区分?」
「何それ……」
「昨日まで、そんな話なかっただろ」
監察局員は騒ぎを気にする様子もない。
「今回の結果は、今後の学園制度の再編成に使用されます」
再編成。
その言葉に、リナの胸がざわついた。
昨日も聞いた。
けれど、その意味はまだ分からない。
「まず――」
監察局員が一枚の書類を取り出す。
「特別科と第一科への編入候補者を発表します」
教室が静かになった。
誰も声を上げない。
監察局員が名前を読み上げる。
一人。
また一人。
生徒たちの間から、小さなどよめきが起こる。
名前を呼ばれた生徒たちは、驚いた顔をしたり、誇らしげに胸を張ったりしている。
そして、読み上げが終わる。
特別科への編入候補は、一名。
第一科へは数名だった。
リナは少し驚いた。
特別科へ第二科からも選ばれた。
「……二科からもいるんだ」
監察局員は続ける。
「なお、今回の結果を受け、現在の学科制度についても見直しが行われます」
「見直し……?」
教室の空気が再び揺れる。
ざわめきの中、リナは呟く。
「今、名前の呼ばれなかった人はどうなるの?」
監察局員は続けた。
「正式な制度については、学園から後日発表されます」
その言葉だけを残し、監察局員は書類を閉じた。
「以上です」
教室を出ていく。
扉が閉まった瞬間。
一気に声が溢れた。
「特別科だって!」
「誰が選ばれたんだ?」
「二科からって、すごくない?」
選ばれた生徒たちを囲むように、クラスメイトが集まっていく。
リナもその輪を遠くから眺めていた。
嬉しそうな顔。
誇らしそうな顔。
その姿を見ていると、自分まで少し嬉しくなる。
「よかったね」
リナは、選ばれた生徒の一人に声をかけた。
「あ、うん……ありがとう」
その生徒は嬉しそうに笑った。
けれど。
その笑顔の奥には、どこか戸惑いもあった。
「……でも」
「ん?」
「これって、喜んでいいんだよね?」
「え?」
「だって……」
その生徒は教室を見回した。
「私たちが他の科に行くってことは……」
言葉が止まる。
リナは、何も言えなかった。
その意味を。
まだ誰も、はっきりとは知らない。
その日の昼休み。
リナとシルヴィアは、いつもの場所で昼食を取っていた。
「ねえ、リナ」
「うん?」
「昨日の監察局の人、第二科のこと何か言ってた?」
「ううん」
「じゃあ、どうなるんだろう」
リナは少し考えた。
「……分からない」
「第一科と特別科だけになるって噂、聞いた?」
「え?」
リナが顔を上げる。
「そんな噂、出てるの?」
「うん。朝からずっと」
シルヴィアは声を落とした。
「第二科、なくなるんじゃないかって」
「……」
リナは言葉を失った。
そんなはずはない。
第二科は必要な場所だ。
魔法理論を学ぶ人。
魔道具を扱う人。
研究を目指す人。
魔力が少なくても、ここで学びたいことがある人。
自分たちの居場所は、ちゃんとある。
今までずっと、そうだった。
「……噂だよ」
リナはそう言った。
「まだ、決まったわけじゃないよね」
「うん」
シルヴィアも頷く。
「そうだよね」
二人は、それ以上話さなかった。
けれど。
その日の午後。
第二科の教員室には、いつもの授業では使わない書類が積み上げられていた。
教師たちは誰も笑っていない。
廊下を通る生徒たちを横目に、ひそひそと話している。
その中で。
一人の教官が、机の上に置かれた資料を見つめていた。
そこには大きく、
『学園教育制度再編案』
と記されていた。
そして、その下には。
第一科
特別科
二つの項目しかなかった。
第二科の名前は――
どこにもなかった。




