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第116話 魔力のない者たち

ミラベルが戻ってきたその夜。


リナの部屋には、久しぶりに二人の笑い声が響いていた。


「それでね――」


「え、それ本当?」


「うん。それで先生が……」


話は尽きなかった。


ミラベルがいなくなっていた間のこと。


学園で起きたこと。


それから、どうでもいいような些細な話まで。


気づけば、窓の外が白み始めていた。


「……もう朝?」


「え?」


二人で窓の外を見る。


「わたしたち……」


「……寝てないね」


顔を見合わせて。


二人同時に吹き出した。


――そして翌朝。


ミラベルと別れたあと、


「ふぁ……」


リナは大きなあくびを噛み殺しながら、廊下を歩いていた。


「リナ、おはよう!」


後ろから声をかけられる。


振り返ると、クラスメイトのシルヴィアが手を振っていた。


「おはよう……」


「どうしたの? 眠そう」


「うーん……」


リナは目元をこする。


「ルームメイトが戻ってきたから、話し込んじゃって」


「え?」


シルヴィアが目を丸くする。


「リナのルームメイトって、特別科のあの子よね?」


「そうそう」


「ミラベルだっけ?」


「うん」


リナは嬉しそうに頷いた。


「ずっと帰ってこなかったから、話したいことがいっぱいあって」


「そっかぁ」


シルヴィアが微笑む。


二人で廊下を歩いていると――


向こうから、黒い外套を纏った集団が歩いてきた。


リナが少しだけ目を向ける。


「……そういえば」


「ん?」


「ここ最近、教官とは違う人たちとよくすれ違うよね」


「ああ、あの人たち?」


シルヴィアが声を落とす。


「王家の人らしいわよ」


「王家?」


「なんでも、学園の規律とか教育制度について調べてるんだって」


「なんでまた?」


「さあ?」


シルヴィアは肩をすくめた。


「私たちには関係ないんじゃない?」


「……そうだね」


リナも黒い外套を見送る。


「魔力のある第一科とか、特別科の生徒たちに対してでしょ?」


「それもそうね」


二人は再び歩き始める。


リナは何気なく、自分の手を見た。


「私みたいに、魔力の少ない子も多いからね」


この学園では。


貴族か、平民か。


家柄がどうか。


それだけで生徒を分けることはない。


この学園で重視されるのは――


魔力。


生まれ持った魔力量。


魔法への適性。


そして、それぞれの才能。


魔力に恵まれた者は第一科へ。


さらに優れた才能や実戦能力を持つ者は、特別科へ。


一方で。


魔力が少ない者。


まだ力が十分に発現していない者。


あるいは、魔法よりも知識や思考に秀でた者。


そうした生徒たちは、第二科で学ぶ。


魔法の基礎。


術式の知識。


歴史。


魔道具。


理論。


実技だけでは身につかない、魔法を支える知識を学ぶ場所。


卒業後の進路も、それぞれだった。


魔力に優れた者は、王家直属の魔法部隊へ。


知識や研究に秀でた者は、魔法研究者や技術者へ。


第二科の生徒たちにも、ちゃんとその先がある。


ここは――


誰かを落とすための学園ではない。


それぞれの才能に合わせて、


それぞれの道へ進むための場所だった。


「……でも」


シルヴィアがぽつりと言う。


「最近、第二科の先生たちも忙しそうじゃない?」


「そうなの?」


「うん。授業の予定が変わったり、申請が厳しくなったり」


「へぇ……」


リナは少しだけ首を傾げる。


「何かあるのかな」


「さあ?」


シルヴィアは笑った。


「私たちには関係ないでしょ」


「……そうだね」


リナも笑う。


そのまま二人は教室へ向かっていく。


――この時のリナは。


まだ知らなかった。


自分たちが当たり前だと思っていた場所が。


もうすぐ、その形を失うことを。

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