第114話 赴くままに
選抜演習から、数日が経っていた。
ミラベルが学園へ戻ってきてから、初めての全校集会。
朝の講堂には、全学年の生徒が集められていた。
いつもなら、学園長が壇上に立つ。
けれど――
今日は違った。
壇上に掲げられているのは、見慣れない紋章。
王家の紋章だった。
その前に立つのは、学園の教官ではない。
王家から派遣された使者。
ざわめきが、静かに広がっていく。
「……王家の人間?」
「なんで学園の集会に……」
そんな声も、使者が壇上へ歩み出ると途端に消えた。
「静粛に」
淡々とした声が、講堂に響く。
「これより、先日の選抜演習について結果を発表する」
ミラベルは生徒たちの列の中に立っていた。
「では、順に発表する」
使者が手元の書類へ目を落とす。
「ノア・ルミエール」
ノアが顔を上げる。
「評価、A」
小さなどよめき。
続いて。
「セレス・アルヴェイン。評価、A」
「エルフィナ。評価、B」
そして――
「ガルド。評価、C+」
「……は?」
ガルドが思わず声を漏らした。
「評価、おかしいだろ!」
眉をひそめ、半歩前へ出る。
「ちょっと待てよ。俺、あれだけ――」
「静粛に」
使者が遮った。
「……ちっ」
ガルドは渋々、口を閉じる。
ミラベルはその様子を見ながら、首を傾げた。
戦闘での成果だけを見れば、明らかに噛み合っていない。
それは、他の三人も同じだった。
まるで。
別の何かを測られているような――
そんな違和感。
そして。
使者が、最後の書類へ目を落とした。
「――特別評価対象」
空気が変わった。
「ミラベル」
一斉に視線が集まる。
ミラベルは表情を変えない。
「空間適応性、および魔力同調において、特異な適性を確認した」
「……」
ミラベルは黙ったまま。
代わりに、四人が反応した。
「なっ――」
「おかしいだろ!」
「そうだ! 俺もミラベルも評価間違えてるだろ!」
「ちょっと、今あんたは関係ないでしょ!」
エルフィナが小声でガルドを睨む。
「俺だって仲間だろ!」
「そういう問題じゃない!」
二人の小声の言い争いをよそに、使者は淡々と続ける。
「よって、今後も継続して観察対象とする」
――観察対象。
その言葉だけが。
妙に重く、講堂へ落ちた。
ざわめきが消える。
誰かが小さく息を呑んだ。
まるで、一人の生徒を評価しているのではなく、何か危険なものを扱うような。
そんな言い方だった。
ミラベルは何も言わなかった。
ただ。
静かに前を見つめていた。
やがて、使者は書類を閉じる。
「以上」
それだけだった。
集会が終わる。
生徒たちが講堂から出ていく中。
「……なんだよ、今の」
ガルドが吐き捨てる。
「俺の評価、絶対おかしいだろ」
「いや、ミラベルの評価がおかしい」
エルフィナが即座に遮った。
セレスも腕を組む。
「王家主導の演習だからね」
「単純な実力評価ではないのかもしれない」
ノアは何も言わなかった。
ただ、ミラベルを見る。
「……気にしてないのか」
「え?」
「さっきの」
ミラベルは少し考える。
そして。
「うん」
あっさり頷いた。
「もう、分かってたことだし」
ノアの眉間に皺が寄る。
「……は?」
「捕まってたときに言われたよ」
「いつだよ」
「えっと……」
ミラベルは顎に手を当てる。
「魔道士の人に」
「……」
「そういや、みんなには言ってなかったね」
「言ってなかったね、じゃねぇよ!」
ノアが詰め寄る。
「あんなに何もされてないのかって聞いただろ!」
「うん」
「だったら何で言わなかった!」
「……」
ミラベルは四人の顔を見る。
そして、少しだけ困ったように笑った。
「みんなが心配してくれてたのが嬉しくて」
「……」
「それで、話すの忘れちゃってた」
「お前なぁ……!」
ノアが頭を抱える。
ガルドが吹き出した。
「ははっ……ほんっと、お前らしいな」
セレスも苦笑する。
「まあ、ミラベルらしいと言えばらしいね」
エルフィナは呆れながらも、ほっとしたように笑った。
「でも、次からはちゃんと言ってね」
「うん。分かった」
ミラベルは素直に頷く。
そして。
「それより、次の授業遅れちゃうよ」
「お前がそれ言うか?」
「え?」
「……いや、もういい」
ノアは呆れながら歩き出す。
その後ろを、ミラベルたちが追っていく。
いつものような会話。
いつものような笑顔。
日常は、戻った。
――そう見えているだけだった。




