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第111.5話 予想外の寄り道

風が止んだ。


「……あれ?」


ミラベルは目を開ける。


足元が、妙に狭い。


「先輩」


「ん?」


「……ここ、どこですか?」


セドリックは周囲を見回した。


そして。


にこりと笑う。


「さあ? どこだろう?」


「……え?」


あまりにも堂々と言うので、ミラベルも思わず周囲を見回した。


下には校庭や学園内の建物が、豆粒のように小さい。


ミラベルは恐る恐る下を見る。


さっきまでいた訓練場には、ノアたちの姿も米粒のように小さく微かに見える。


「…………」


慌てて視線を戻した。


「せ、先輩」


「うん?」


「ここ……かなり高くないですか?」


「そうだねぇ」


「そうだねぇ、じゃないですよ!」


セドリックは楽しそうに笑っている。


「まあまあ。落ち着いて」


「落ち着けませんよ!」


ミラベルは足元を見た。


二人が立っているのは――


屋根。


それも、魔法塔の屋根だった。


塔の頂点。


尖った屋根の、そのさらに先。


まともに足を置ける場所などほとんどない。


セドリックは片足で器用に立っている。


ミラベルも必死にバランスを取っていた。


少しでも風が強く吹けば、そのまま地面まで真っ逆さまだ。


「……先輩」


「何かな?」


「移動魔法なんて使えるんですね」


「まあね」


セドリックは得意げに胸を張る。


「でも……」


ミラベルは辺りを見回した。


「ここに着くつもりだったんですか?」


「いいや」


即答だった。


「違うよ」


「…………」


ミラベルはセドリックを見る。


「でも、移動魔法、使えるんですよね?」


「ああ。そうだよ」


「じゃあ、どうしてここに……」


「今日初めて使ったんだけどね」


「…………」


ミラベルは絶句した。


セドリックは満面の笑みを浮かべる。


「初めてにしては上出来でしょ?」


「……」


「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」


ミラベルはしばらく黙っていた。


そして。


「この場所に降り立って、上出来だなんて……」


じっとセドリックを見る。


「先輩、自分に甘すぎませんか?」


「ひどいなぁ」


セドリックは肩をすくめる。


「僕は、人にも自分にも優しい人間さ!」


「それ、ただの自分に甘い人じゃ……」


「おやおや」


その時。


びゅうっ


強い風が吹き抜けた。


「――っ!」


ミラベルの身体がぐらりと揺れる。


「わっ……!」


慌てて屋根に手をつく。


セドリックも片足をずらした。


「おっと」


「先輩!」


「大丈夫、大丈夫」


「全然大丈夫じゃないです!」


「ほら」


セドリックは笑う。


「ちゃんと立ってる」


「片足で、ですけど!」


ミラベルは再び下を見た。


遥か下に地面が見える。


「……落ちたら死にますよね」


「まあ、たぶん」


「たぶんって……!」


ミラベルが顔を引きつらせる。


セドリックはそんな彼女を見て、くすくす笑った。


「まあ、そう怒らないでよ」


「怒りますよ!」


「ちゃんと目的地には向かってるから」


「……本当ですか?」


「ああ」


セドリックは遠くを見る。


その表情が、ほんの一瞬だけ変わった。


いつもの軽薄な笑みが消える。


「――少し、寄り道しただけさ」


「……?」


ミラベルが首を傾げる。


けれど。


セドリックは、もういつもの笑顔に戻っていた。


「さて」


「……何ですか?」


「ここからどうやって降りようか」


「…………」


ミラベルは無言でセドリックを見つめた。


「先輩」


「うん?」


「先輩が悪い人ではないということはわかっていますが……」


「そうだよ」


「……いくらなんでも、この状態では信用できません」


「ははは!」


風が、もう一度吹き抜ける。


二人の立つ魔法塔の尖塔が、かすかに揺れた。


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