第11話:山の外縁と、歪み
特別科の教室。
いつも通り、静かすぎる空間だった。
"校庭集合"板書が目に入る。
(……今日は外か)
窓の外には、霧に覆われた山が佇んでいる。
それを見た瞬間、胸がざわついた。
同時に、ペンダントが微かに熱を帯びる。
嫌な予感がした。
校庭へ出ると、すでに二人は揃っていた。
教官が口を開く。
「実地訓練だ。三人で行動しろ」
視線が自然と交わる。
ノア。
セレス。
そして、私。
「拒否権はない」
(……いつもだけど、一方的だな)
短い一言で、すべてが決まった。
——
山の外縁。
空気が重い。
淀んでいる。
……息が苦しい。
「瘴気だ」
セレスが淡々と言う。
「長くいれば侵食される」
ノアは何も言わない。
ただ、前だけを見据えている。
一歩、足を踏み入れる。
その瞬間。
ペンダントが強く脈打った。
空気が揺れる。
瘴気が、わずかに後退した。
「……やはりか」
セレスの声が低く響く。
「瘴気を“拒絶”している。守護系統の極致だね」
森は異様に静かだった。
生き物の気配も、ほとんどない。
……おかしい。
そう思った瞬間。
ノアが足を止める。
同時に、影が動いた。
黒い獣たち。
かなり大きい。
纏う瘴気も、濃い。
「来るぞ」
一斉に襲いかかる。
反射的に結界を展開する。
だが、一瞬。
揺らいだ。
……まずい。
その隙を、ノアが埋める。
核を断ち、敵が崩れ落ちる。
「……遅い」
短い声。
だが、ノアの動きは最初から結界内で守られている前提だった。
自然と噛み合っている。
セレスがこちらを見る。
「感情で出力が変わるね。焦った時、弱い」
……落ち着け。
呼吸を整え、深く息を吸う。
怖い。
でも——守りたい。
その瞬間。
光が安定した。
結界が強く広がる。
獣たちの攻撃を完全に弾いた。
「……進むぞ」
ノアが小さく言う。
迷いなく踏み込む。
一体。
また一体。
次々と核を破壊していく。
やがて、すべてが静寂に包まれた。
だが——
奥から、さらに濃い気配が迫る。
重い。
歪んでいる。
「……来るぞ」
ノアの声が低くなる。
霧の奥。
黒い何かが、ゆっくり現れた。
歪んだ気配。
濃すぎる闇。
片目だけが、異様に光っている。
胸が強く締め付けられる。
ペンダントが激しく脈打った。
「……またコイツか」
ノアが呟く。
セレスがたじろぐ。
「異様な気配だ。この山の“歪み”か?」
それが、ゆっくりこちらを見る。
声にならない声が、胸に響いた。
『……かえ……せ……』
……え?
聞こえる……?
胸の奥の力が反応する。
まるで——呼ばれたように。
「……今の声、聞こえた?」
ノアは眉ひとつ動かさない。
「何も聞こえない。行くぞ」
セレスも静かに首を振る。
「……いや、何も。——それより、ただの魔物じゃない」
ノアが一歩前に出た。
「少し下がってろ。俺が先行する」
手が震える。
怖い。
でも——助けないと。
その感情に、力が呼応する。
光が強く脈打った。
……やらなきゃ。
胸の奥で、決意が燃えた。




