第10話:3つの異質
翌日。
特別科の教室に入ると、違和感があった。
(……増えてる)
机が、一つ増えている。
「遅かったな」
教官は、いつもの場所に立っている。
その隣に——見知らぬ人物。
銀色の髪。
整った顔立ち。
年は同じくらいに見える。
だが——纏う空気が違う。
彼は静かに歩み寄り、机の前に立つ。
無駄のない所作。
姿勢にも、一切の乱れがない。
教養と育ちの良さが、自然と滲んでいた。
「事情があって遅れたが、今日から特別科に加わる」
短く告げられる。
「——セレスだ」
彼は、ゆっくりとこちらを見る。
静かな視線。
だが——測るような目。
「……君が“例の”」
(……例の……?)
胸がざわつく。
「面白い反応だったよ、初日の測定」
淡々とした口調。
「……普通の魔力とは、質が違う」
息が止まる。
(……見抜かれてる……?)
「……余計なことを言うな」
低い声。
ノアだ。
セレスは、わずかに視線だけを向ける。
「事実だろう?」
空気が、わずかに軋む。
(……この二人……)
ただならない気配。
「続けるぞ」
教官が割って入る。
「今日は“理解”の時間だ」
視線が、こちらに向く。
「お前の力——再現してみろ」
(……無理……)
昨日は、勝手に出ただけ。
「できません……」
正直に答える。
「だろうな」
ノアが即答する。
「だから試す」
教官は不敵に笑う。
床に、再び魔法陣が展開される。
だが——昨日とは違った。
現れたのは、傷ついた小さな獣。
弱々しく、今にも消えそうな存在。
(……え……)
「治せ」
教官の短い一言。
(……治す……?)
胸が、強く締め付けられる。
苦しそうな呼吸。
かすかな鳴き声。
(……助けないと)
胸元のペンダントが、強く熱を帯びる。
足元に光が広がる。
優しい光。
昨日とは違う。
包み込むように、獣を覆う。
傷が、ゆっくりと消えていく。
「……やはり」
セレスが、小さく呟く。
無駄のない姿勢のまま、冷静に観察する。
光が収まると、獣は静かに立ち上がった。
(……できた……)
その瞬間。
強い眩暈が襲う。
「っ……」
膝が崩れる。
その前に。
腕を掴まれる。
ノアだった。
「……無理に使うな」
低い声。
(……あ……)
昨日より近い距離。
すぐに手は離される。
「……非効率だ」
そう言いながらも——少しだけ遅かった。
(……今の……)
「興味深いね」
セレスが近づいてくる。
視線が、まっすぐ向けられる。
「防御、治癒、魔力干渉——君の力は“守護系統”だ」
意味を強調するように息を吐く。
「本で読んだことがある」
「王家由来の血筋に伝わる力だそうだ」
その口調には迷いがない。
培われた知性が滲んでいた。
胸の奥がざわつく。
(……王家由来……?)
「隠しても意味はないよ」
セレスは肩をすくめ、視線を窓の外の山に向ける。
その動きも静かで無駄がない。
「あの山と似てるね」
(……え……)
「……ただし、同じではない」
心臓が、大きく鳴る。
「むしろ——」
セレスは言いかけて、やめた。
「……そういえば、君はあの山を越えてきたんだよね」
セレスがノアを見る。
ノアは何も言わない。
ただ——わずかに視線を伏せる。
「……関係ない」
短い言葉の奥に——何かを抱えた影がある。
山。
精霊。
そして——この力。
全部が、繋がり始めている。
教官が、わずかに笑う。
「揃ってきたな」
守る者。
壊す者。
視る者。
三つの異質が、同じ場所に集まる。
——何も起きないはずがなかった。
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